第26章 手のひら
手首を掴んで引き寄せる。
首に手を添えて口付けた。
ゆっくりと、一度。 吸い付くように。
柔らかくて、みずみずしくて、温かい穂波さんの唇。
穂波さんは呆気に取られた顔をしてる。
隙がありすぎる。孤爪さんも孤爪さんで何考えてんだか
…普通、許可する?
…賢そうって言うか絶対賢いくせに。 馬鹿じゃないの。
「…もっとしたいですけど。こっちも食べたいですし。一旦保留で」
ずいぶん短くなった蝋燭の火を吹き消す。
調理室は一層暗くなり、鍋の下で燃えるコンロの青い火だけが見える。
『あっ あっと、電気つけてくる…』
「…このまま、したいことします?」
掴んだままの手首をさらに引き寄せて聞く
『…したいこと?』
「…暗い部屋で、男女が2人きりですること」
『へっ 蛍くん からかっ…』
「…からかってないよ、僕の気持ち知ってるくせに」
『あっ そうだよね、うん、そうだよね…』
「…あはは 何想像したの?」
『…えっ 暗い部屋で、男女が…』
「穂波さん、そんなこと考えてエッチだなぁ。 僕は、早く食べたいだけなのに」
『ええっ だって蛍くんがっ』
「いいえ、だって穂波さんが、です」
『………』
「いい加減電気つけないと穂波さんが想像したこと、始めちゃうよ?」
『あーっと、つける。つけるから、手を離していただけますか…』
「ぷっ… はいどうぞ、気をつけて」
『うん』
・
・
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「これは、僕ひとり分?」
『うん、食べきれなそうだったらもちろん手伝う。食べたいだけ食べて?
クリーム、そんな重くないと思うんだけど… いかんせんまだ、蛍くんの食の好みがわかんないから』
「…まだ、ね。 …一緒に食べよ。 切らずに一緒につつこう」
『うん、フォークもう一本持ってくる。今、お茶もいれるね』
キスしたことはその後のやり取りで、一旦忘れたらしい。
キスせずにはいられずについ、してしまったものの
そのあとの時間をゆっくり楽しめるかは定かじゃなかったけど…
この調子ならいつもの感じでいられそうだ。