第26章 手のひら
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穂波さんは仕込みをしてる。
黒尾さんたちやマネージャーの人たちはみんな銭湯へ行った。
今は僕と穂波さんだけが部屋にいる。
『もうちょっとだけ待ってね、これ、火にかけたら一旦そっちにいく』
お茶を飲みながら待つように言われて、
僕は穂波さんが手際良く立ち回っているのを眺めている。
『蛍くん、少しだけ目を瞑ってくれる?』
「はい?」
『えと、目を閉じてもらってもいい?」
「あぁ、はい」
言われた通りに目を閉じる。
目を閉じて待つのってなんか恥ずかしいというか… そわそわするな。
『…ふふ、蛍くん。もういいですよ』
目を開けると電気が消されていて、
小さな蝋燭の灯りの届く範囲だけ目視できる
目の前には小さなホールケーキ。
直径15cmくらいの、小さなショートケーキ。
生クリームが綺麗に塗られていて、
デコレーションは品よく丸く絞られたクリームと
16という数字に型抜きされたクッキー、
線の細い緑の葉っぱと金色のキャンドルが一本。
「わ」
『蛍くん、ちょっと日が経っちゃったけどお誕生日おめでとう』
隣で立ったままでいる穂波さんを見上げる。
ゆらゆらと揺れる火の光でみる穂波さんは、
いつも以上に魅力的で 目が、奪われる。
「あ、うん。 ありがとう」
サプライズとか反応に困るから好きじゃないのに。
…全然いやじゃない
『………』
「………」
『…? 蝋燭、垂れちゃうよ?』
「見てたい」
『…ん?』
「…馬鹿じゃないの」
『え』
自分のこと好きって言ってるやつに、こんなことする?
ケーキまではまだしも、電気消して隣くる?
普通にイケるって思うでしょ、このまま朝まで、みたいな。
「やっぱ、キミは馬鹿だね」
『………』
「今僕は嬉しくて、見上げたら好きな人がいて、
いつもと違う灯りでみると一層綺麗で、見惚れてる」
『………』
「…今日こうして僕と会うことも彼氏に言った?」
『…え、あ、うん。言った』
「…じゃあ、向こうも想定内ってことで、遠慮なく」