第26章 手のひら
ー穂波sideー
今日もまた、夕方にレッスンに抜けるので
選手たちの昼休憩の間になるべく仕込みを続ける。
今日はずっと合宿で作りたいなぁと思っていたハンバーグ。
なんか、ハンバーグっていい。
なんていうか、ど定番感。
何の定番かって、みんなが好きなものというか。
せっかく涼しくなり始めた時期の合宿なので満を辞してって程でもないけど…
煮込みハンバーグにしておけば、温めるだけだし◎
予算の関係もあって合い挽き肉と鶏肉を混ぜてひたすらこねる。
玉ねぎやら調味料、パン粉もろもろを入れた肉ダネ。
これがまた、冷たい。
きーんってなる。
「穂波ちゃーーーん!!!」
『わ、光太郎くん』
大きな大きな声を響かせて光太郎くんが来た。
トレーは、空じゃない、な。
「ここで食べていーい?研磨クンはあっちにいた」
『へ? あ、うん。もちろん。でも今ちょっと、手がこんななってて。
なんのお構いもできないけど…』
「そんなの求めてないよーだっ 今くらいかなぁっと思って」
『…ふふ 好きなとこにかけてね』
光太郎くんはわたしが作業してる台にやってきて、
置いてある材料を横に避けて向かいに座る。
「いただきまーす!」
『はい、どうぞ』
見事な食べっぷりで、むしゃむしゃと食べてくれる。
あぁ、ハンバーガー屋さんでの姿を思い出すなぁ。
天板に整形した肉ダネを並べながら、光太郎くんが食べる姿に見惚れてしまう。
食べる姿もまた、パワフルで魅了するなぁ。
豪快だけど、決して汚くはない。見ていて気持ちいい。
「なーにー?穂波ちゃん」
『へっ?あ、見惚れてた』
「あっはっはー どんどん見惚れていいからねー
なぁ、それって何になるの? ハンバーグ?」
『うん、そうだよ。光太郎くんとハンバーガー食べたなぁって思い出してた』
「食べたよな!それで、フラれた!」
『フッ フラれた?』
確かに想いは伝えてもらったし、受け取った。
でも応えることはできなかったけど、フったと言われると…
まぁそうなのかもしれないけど…
なんか、え、ふったの?って自分でびっくりしてしまう。