第26章 手のひら
『…あ、んーと、やっぱ手のひらからは色々出るんだよね、わたしはそう思ってる』
「手のひらから色々出る…」
『科学的なことではないけど… 糠漬けとかさおなーじ分量で、同じように混ぜても、
人によって味が違うんだって。手のひらから出るものが違うのかなぁ。
ほら、気功とかあるでしょ? そういう感じで。わかんないけど』
「気功…」
『わたしも影山くんに触れてると気持ちいいよ』
「あ、そうなんすか」
『…なんだろなー 影山くんはふわぁっていう気持ちよさじゃなくって、冷たい水というか。
くぅぅぅーーーってなるよ。 冬の朝の空気というか。 澄んでて、キリッとしてて、背筋が伸びる。
いらないものが剥がれ落ちていく感じがする』
「…はぁ」
ピンときてないね、これ。
嘘はついてない、どれも本心だけど、
影山くんにわたしが触ってるとこが気持ちいいなんて言われて、
無理くり結びつけた話題だったから、なんていうか…
影山くんが興味を持ってくれなきゃ、これ以上展開できない。
「…それって、例えば家にいる時とかに思い出したりする感じっすか?」
『へ?』
「俺のこと思い出したりします?」
『…え、あ、うん? 思い出すよ』
「そっすか… 例えばどういう時っすか?」
『んーと、単純に会話を思い出す時もあるし、自分の大事について考えたりもするし…』
「…俺は、寝る前もなんすけど、朝起きた時とかは結構思い出します。
あと、部活帰りの道とか、授業中とか… なんすかね、これって」
『へっ? あっ あれ? 何の話だったっけ? 影山くんは何を思い出すんだっけ?』
「穂波さんに触られた時の気持ちいい感じはやっぱ布団とか風呂でが多いっすね。
部活帰りとか授業中は単純に穂波さんのこと思い出します。
話したこととか、笑ってる顔とか、あと今何してんのかな、とかそういうことをぼけっと』
『…えと、ちょっと………』
「あ、あとメシ食ってる時、やっぱ思い出します。
穂波さんのメシ食いてえなって。家にいてくれたらいいのになって」
『…んと、ぇと、影山くん、ちょっとね………』
「あ、あとっすね…」