第25章 秋刀魚
ー穂波sideー
研磨くんがわたしに愛想を尽かすとか…
ちょっとリアルに想像できてショックが大きい。
犬岡くんが優しくしてくれて、
それにひどく安心して泣き出してしまった。
「…それに、穂波さん」
犬岡くんは腕にしがみついて泣いてるわたしを
小さい子にするみたいにぎゅっと抱きしめてくれる
それから頭をぎゅーって胸に寄せながら、
わたしの頭に顔をあてて、優しい声で囁くように話しかけてくれる。
わたしにしか聞こえないような声で。
「研磨さんがもし、愛想尽かすかもしれないなら、今あんなに余裕にしてないと思うよ。
愛想尽かす前ってきっと、もっと、余裕ないんじゃないかな。
余裕がなくて、それからどうでもよくなって、最後は…でしょ。
研磨さんはね、今この穂波さんのこともかわいいなぁってみてるんだよ。
…それもちょっとどうかと思うけど。でも研磨さんらしいかな、とか」
カズくんと言葉を交わした流れからか、犬岡くんの敬語が砕けた。
優しい弟にあやされてる気分が一層高まる。
「だから、ね? もう大丈夫. …どう?落ち着いた?」
『…ん、落ち着いた。犬岡くん、すき』
「えっ ちょっと」
『連れて帰りたい。いくらでもご飯作るから、家にいて欲しい』
「何言ってんすか!」
『お兄ちゃんと犬岡くんの妹さんが結婚したら…犬岡くんはわたしの弟にもなる?』
「…あれ?それはどうなんだろう。それは、ならないんじゃない?」
『…そっか』
「またいつでも行きます!穂波さんのご飯いくらでも食べたいっす!」
『…ふふ。うん、犬岡くん、ありがとう。
何でこんなにみんな優しくて、何でこんなにみんなそれぞれ腕の中が心地いいんだろう』
「…穂波さんは時々妹みたいに思います」
『………』
「あっ すみません…」
『ううん、いやじゃないよ。ちょっと情けないけど 笑 生まれたの一年も違わないし』
「かわいいし、守りたくなる。でも、落ち着いてて、色んなこと知ってて、お姉さんでもあるし。
話しやすくって、同い年の子みたいにも思う。魅力的な人ですね」
『へっ ちょっと、犬岡くんふいうちっ』
「あっ すみません!」