第25章 秋刀魚
『…興味あるかわかんないけど、港区にあるんだよ。駅は、浜松町だったかなー?』
「行こう」
『へ?』
「一緒に行こう」
『…へ? あ、うん。 いいよ!行こう、予定合わせよう』
「真っ暗闇で睨めっこ」
『…ん?』
それから福永くんはまた、
ジェスチャーと目配せのコミュニケーションに戻った。
真っ暗闇で睨めっこって言った?
駄洒落じゃないけど、なんだろう。
真っ暗闇で睨めっこ、したいのかな?
…え? ん?
『…ふっ 笑』
「 ! 」
『あはは… 笑』
「 !! 」
『真っ暗闇で睨めっこしようね、もし自由時間があれば』
「………」
福永くんの顔を見上げると、嬉しそうな表情をしてる。
福永くんのこの表情は、研磨くんのわくわく顔とちょっと似てるというか。
猫っぽい目、頬がすこぉし赤らむ感じ。とかかな、わかんないけど。
…かわいい
・
・
・
それから数品すぐに食べれるように、
福永くんと一緒に仕込んだ。
福永くんは、素材を手に持って2回ほどくすっと笑った。
何か駄洒落が思い浮かんだのかな。
研磨くんはたまに聞けるらしいんだけど、
他の部員はまだほとんど聞いたことがなくって、
こうやって思いついた時のくすって笑いならあるって言ってた。わたしもそっちだ。
…でも、真っ暗闇の睨めっこだけでも今日は大収穫だ。
「穂波ちゃーん、お腹すいたー」
ボウルやザルなどを洗いながら福永くんと話して?いると
ツトムくんがカウンターの向こうから声をかけてきた
『そっか、ツトムくん残り物しか食べてないもんね。普通に食べる?』
「うん、食べるー」
『福永くんももう食べる?』
福永くんはコクリと頷く。
『みんなも食べるかなぁ…』
「俺聞いてくるー♪」
こういう風にツトムくんは相手に何だろな、
引け目?とかを感じさせずにヘルプしてくれる。
ご機嫌で、なんでもないこととして、流れで。
それは出会った頃からずっと尊敬していて、真似したいと思っているところ。
うっかりお礼を言い忘れるくらい自然に
一緒にいる間にツトムくんのままのペースや物言いで
流れを作ってくれたり、助け舟を出してくれたりする。
アシスタントとしても有能なのだろうなぁと思う。