第25章 秋刀魚
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それからしばらくして海さん、球彦くん、芝山くんはそれぞれの家に帰っていった。
いつか鱈の塩焼き定食も作るね、と言ったら球彦くんははにかむように小さな笑顔を浮かべて
「はい」と言った。 あぁ、一年生。 みんなみんなかわいすぎる。
門のとこで2人を見送って、台所へと向かう。
結構食べてたけどみんな普通に食べれるのだろうか。
大人たちと研磨くんはそんないらないだろうな。
周平もカズくんも今日はそんな食べなそう。
残るは6人の男子高校生。
周平のお父さんが中華麺をいっぱい持ってきてくれたから、
ジャージャー麺をいつでも食べれるように肉味噌を仕込んでおく。
『 ! 』
突然背後から肩をつんつんされて驚いて振り返ると福永くんがいた。
福永くんは喋らないわけじゃないけど、
敢えてこのスタイルを選んでるんだろうか。
目配せとジェスチャーで手伝うよ、って言われてるのがわかる。
『手伝ってくれるの?嬉しい.…じゃあね、きゅうりとハムを千切りにしてくださいな』
福永くんはとんとんっと包丁を動かす。
『福永くんはお休みの時とか、お料理したりするの?』
少しだけ、っていうジェスチャーをする。
『…ねぇ、福永くんはダイアログ・イン・ザ・ダークって知ってる?』
「…?」
『真っ暗闇の中で丸太を渡ったり、食べ物を注文して食べたり、音を聞いたりするんだって』
「………」
『ガイドについてくれるのは、盲目の方なんだって』
「…へぇ」
『福永くんとこうしてたら、思い出した。行ってみたかったの』
「………」
福永くんは敢えて喋らないだけだし、
だからわたしが普通に喋っても聞き取ってくれるし、
全然違うけど、何となく、敢えてそれをしないことで得る感覚があるのかな。
研ぎ澄まされる感覚があったりするのかな、とか思ったりして。
真っ暗闇のなかで、盲目の人にガイドしてもらって
さまざまな感覚を研ぎ澄ませていろんな体験が出来そうなそれを、思い出した。