第24章 かぼちゃ
『………京治くん?』
沈黙を破った穂波ちゃんの声にはっとする。
はっとした時にはもう、俺の右手は穂波ちゃんの頬に添えられていた。
親指は今にも唇に触れようとしている、そんな状態。
「あ、ごめん」
後に続く言葉が出てこない。
『ふふっ やっぱり京治くんとわたし、そういうとこ似てる』
「…?」
『まえの音駒合宿の時の朝も、こういうのあったよね。…ふふ 京治くんっておもしろい』
「あぁ… そうだね。 そっか」
穂波ちゃんはこんな突拍子のないことも、
こんな風に受け止めてくれるんだった。
『あれから今日まででこういうことあった?』
なぜか穂波ちゃんは俺の方ににじり寄ってくる。
距離が更に縮まる。
「…いや、後にも先にも穂波ちゃんにしか」
『あはは…!似たもの同士に発動するのかな?何だろうね、京治くんの引き金は』
「………」
そんなこと、本当は分かりきってるのだけど。
『実を言うとわたしもさっきね、京治くんに手を伸ばしそうだった。
そんな時間が流れてたよね。空間のうねりじゃないけど、なんか。
しーんとして、静かで、2人きりみたいな。綺麗で、澄んでて、でも深いところみたいな』
「………」
『おもしろいね。こういうことってあるよね』
穂波ちゃんはそんなことを言いながら
顔をくしゃっとさせて、可愛い顔で笑う。
すぐそばで。揺れる花のように。
「こういうこと、あるんだね。穂波ちゃんに出会うまで知らなかった」
『…そっか。引きずりこんでるのかな、無意識に』
「あはは… 穂波ちゃんって、本当にかわいらしい子だね」
『…えっ え…』
つい溢れでた本音 …いつも心にもないことは言ってはいないつもりだが、
あえて言わないようにしていた本音みたいなものに、
穂波ちゃんは途端に顔を赤らめ、目を伏せて所在なさげにし始めた。
…とても愛らしい。