第24章 かぼちゃ
『まぁ、無理のない範囲でいいんだけどねっ。ストイックにはなれないたちでして…』
「…そういうとこ、いいよね。押し付けがましくなくって。
やっぱ僕、穂波さんのこと好きだな」
『…ゴホッ…… ケホッ………』
「………」
『蛍くん… 危なかったー 吹き出すところだった』
「…良かったです、吹き出さなくて」
『はい、蛍くんも飲む? 瓶にリバースしてないから大丈夫だよ』
「そんなの別にどっちでもいいけど。 いただきます」
牛乳瓶からりんごジュースなんて僕も初めて飲んだ。
『…ねぇ、蛍くん。 蛍くんはさ…』
また、斜め下から覗き込むようにして話しかけてくる。
これどきっとするんだよな… どんな言葉が続くんだろう
『飲み口が厚めなのと薄めなのどっちが好き?』
「…はぁ?」
力が抜ける。
ドキッとした自分がひどく滑稽に思える。
『湯呑みとかマグカップの飲み口。好みとかある?』
「…んー、考えたことない。でもあんま薄いのは怖いような。穂波さんは好みがあるの?」
『あぁ、わかる。薄いのは怖いよねぇ。ワイングラスとか。
いれるものにもよるんだろうけど、わたしは厚めがすき』
「へぇ、牛乳瓶とか?」
『そう!なんかそのりんごジュースやたら柔らかくまろやかに感じるのはそのせいなのかな?
って思って。 美味しいね。 もっと飲んでいいからね』
「あぁ… 言われてみるとたしかに。 そうだね」
この人は自分の印というか足跡を人の心につけてく天才だと思う。
意図してやってるんじゃなくって、自然にそれをやってしまうから、
対応できないし、そもそも嫌な気がしない。
例えば今の話。
これから日常の中で、ふと自分はどの厚さが好きなのかとか考えることがあるだろう。
普通の水やりんごジュースを美味しいと感じた時、
飲み口の厚さをつい見てしまうかもしれない。
そうしてその時にきっと、この人を思い出す。
それがこういうそれでも具体的な一つの事柄だけでなく、
花や風、海だとかそんな大きなものにまで及ぶからキリがない。
天然たらし。
ほんとにそれだと思う。