第5章 夏
…こういうとこ、遊児のいいとこの一つ。
『ありがと』
小さい頃みたいに手を繋いで石を伝って向こう岸に渡る。
倒木に腰掛けて、鞄の中から食べ物を出して渡す。
「サンキュ。穂波は食べねぇの?」
『…じゃあ、バナナ一枚だけ頂戴』
「あーい………穂波、最近どうしてんの」
『最近?んー、楽しんでるよ。相変わらずダンスしてる。
遊児は?あ、バレー部、どう?』
「俺も相変わらずでやってんよ。遊んで遊んで遊んでる。
部活は先輩らはいい人なんだけど、なんか遊びが足りないんだよなァー」
『…ふふ。コートでいっぱい遊べるといいね。
ね、遊児の学校ってなんて名前?』
「条善寺高校」
『じょうぜんじ!なんかかっこいい名前だね』
「なんで?転校でもしてくんの?」
『いや、わたしが通ってる高校のバレー部と縁のある高校がこっちにあるんだって。
遊児、バレー部って言ってたなぁと思って気になって』
「…なぁ、穂波、ほんとエッチになったな」
『…え?今?どこでそう思った? てか、その言い方いや。
色気が増したな、とかもうちょっと言い回しして欲しい』
「でもなんか意味は一緒でもニュアンスあるっしょ。俺にはエッチ」
『…まぁいいや。遊児も、いい感じに大きくなったね』
「あー穂波みたいな彼女が欲しいわー」
『………』
「何やってても笑って見守ってくれて、たまに注意してくれて、
一緒に遊びたいときは遊んでくれて、それでいてエッチ」
『遊児にならきっとみつかるよ〜いい男だもん』
「お。穂波は俺みたいな彼氏欲しい?」
『遊児みたいな彼氏はべつに欲しくない 笑』
「直球!笑 穂波彼氏できたんだろ」
『うん、できたよ。すっごく素敵な人』
「へぇ、どんなやつ?俺みたい?」
『いや、全然。遊児みたいな人を探してるわけじゃないし。笑
遊児みたいな人じゃなくって、遊児と違う形で出会ってたら惹かれてたかもな、とは思うけど』
「……写真ある?」
『…あれ、まだ写真一枚も撮ってないかも』
「え!そんなことってあんの?まぁ穂波ならあるか」
『またいつか会えるといいね』
「ま、いーや。ちょっと俺、あの木登ってくるわ」
『ん。蔓探しとくから、登れたらターザン作ろ』