第23章 high
ー月島sideー
不思議な人。
昨日の試合が終わって、すぐにでも話したくなった。
時差がなければきっと会場で電話していたと思う。
僕の好きなバンドを知っていて、そして好きだという。
思いつきでライブに行けるか尋ねれば、本気で悩んでくれる。
普通、わざわざ仙台まできて他の男とライブとかすぐ断るとこでしょ。
おばあさんの家があるからとか、
穂波さんはちょっと他の人と感覚が違うとか、
そういうのわかった上でも錯覚に陥る。自惚れる。
あれ、このまま押せばほんとにいけるんじゃない?って。
ていうか、キスで止めず最後までしてしまえば、
別れてくれるんじゃないかとか。
でもさすがにそれはちょっと下衆だよな。悲しくて泣いてる顔見たくないし。
いやでもそこも、最後は僕が笑顔にできるんじゃないか…とか。
だって、ほんと無邪気に声あげて笑うし。
…いやいや、でもそれはだめだろ。流石に。
こんな風に電話やメールで何でもない会話をしたり、
その中で約束をしたりなんてしてると、
彼氏みたいな、両思いの気分になってくるのはおかしなことじゃない、と思う。
このまま遠距離の浮気相手でいいから、
もっと触ったり近い存在になれたらいいのに。
…僕は一体何を考えてるんだ。
昨日試合だったのに今日も普通に練習。
ヘッドホンを耳にあて、バス停へと向かう。