第23章 high
ー赤葦sideー
8月も半ばが過ぎる頃、
部活を終えて家に帰ると机の上に一枚の葉書が置いてあった。
透き通る青い海に白い砂浜。
差出人は見ないでもわかる。
【Ia Orana!京治くん、お元気ですか?こちらは気候も良く過ごしやすい日々です。
…と言ってもこれを書いているのは到着後3日目だけど。笑
タヒチは公用語が英語ではないので、そう言う意味でもとっても刺激的で楽しいです。
ツーリスト向けのお仕事をしてる人たちは英語も喋ってくれるけど、
それがまたフランス訛りできゅんきゅんしています。
英語が当たり前には通じない国をもっともっと旅してみたいなぁと思いました。
空がとても綺麗で、京治くんもきっと読書する手を止めてぼーっとするだろうなぁと思いながら
朝も昼も夕方も夜も、窓から、海の上で、砂浜の上で、空をみています。
冒頭の挨拶は、地元の小学生に教わりました。挨拶に使う言葉です。
ではでは、佳き日々をお過ごし下さい。 タヒチより愛を込めて。 穂波】
整ってはいるけれど、整いすぎていない手書きの字。
葉書にびっしりと書かれていて、不思議と心が和む。
喋るようにただ、思ったことを書いたのだろうな、というか。
力みなくペンを手に取り、俺に文章をしたためてくれた。
それだけのことがとても嬉しい。
何度も、何度も読み返した。
ベランダに出て、もう暗くなり始めた空を眺める。
人を好きになると言うことは、なんと豊かなことなのだろう。
月末に音駒で会えるのが、楽しみだ。
浮かれてはない。 …ただ、そのまま、楽しみだ。