第23章 high
ー穂波sideー
「穂波、またなんか弾いて。おれ、好きかも。穂波の音」
歯磨きも終えて、もう寝るだけ、というときに言われた。
キャンドルの光だけでちょっとぼけっとしようとしたとき。
ギターを弾いたのは数ヶ月ぶりで、
昼間、慣らしながら弾いたけど、気に入ってくれたらしい。
誰か人に聞いてもらうために弾いたり歌ったりはしないのでなんだか少しくすぐったい。
でも「聞かせて、聞かないから」がすごく好きだった。
実際そんな感じだったし…
『…ん。テキトーに触ろうかな。久々に弾いたらやっぱ好きかも』
「…ん」
指を慣らすようにblackbirdの伴奏だけをぼんやり弾きながら、
弾きたい曲が出てくるのを待つというかなんというか…
ぼんやりした時間
All you need is love, Across the Universe, In my life…
ビートルズばっか歌ってた
『あ』
ビートルズではない、
歌いたい曲が思い浮かんで歌い始めると、
「あ」
研磨くんがそう小さく声を漏らす。
…お父さんの影響か、研磨くんも結構古い曲を知ってるぽい。
弾き終えて、少ししてから研磨くんが口を開く。
「それ、父さんがすきなやつ。いや、まぁどれも父さんがすきなやつだけど…
それcalico skiesと同じくらいよく聞いてた」
『…そっか。お父さんはロマンチストだね』
「え」
『なんて言ったらいいのかわかんないけど… どっちもわたしはすごくすき。
メロディだけじゃなくって、歌詞も含めても』
「へぇ…」
『お父さんがロマンチストとか言われても、変な感じか 笑』
「いや、まぁ父さんはわりとそんな感じだから違和感はないけど」
『うん、わたしもしっくりくるな。 …あぁ、素敵』
どっちも真っ直ぐにすぎるほどに甘いラブソングだ。
甘ったるいんじゃなくて、甘くて暖かいような。
研磨くんの育ったお家はやっぱり暖かい。
そんなこともう知ってるけど、しみじみそう思った。