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【ONE PIECE】人はそれを中毒という

第8章 私という存在


「欲しいものありますか?」
「……ない」
「あればいつでも言ってくださいね」

お盆には軽食など乗せてあったが、手を付ける気はなさそうだ。

コンコンとノックが聞こえ、クロエの代わりにジルが医師を招き入れる。
一通り診察される間も黙り込んだままのクロエに医師たちも異変を感じるが、ただ黙っているだけなので何が可笑しいとはハッキリと言えなかった。

「体調に関して新たな問題はありません。先日の毒に関しての不調は相変わらずですが」
「倒れていたのはそれが原因ではない、ということですか?」
「どちらとも言えませんね。気を失うほど体調の悪さは見当たりませんでしたが…初めて扱った毒物ですので絶対とは言いきれません」
「わかりました。ありがとうございます」
「クロエ中将、無理なさらず養生してください」
「……はい」

素直に一言だけ呟いたクロエに、いよいよおかしいとジルと医師は顔を見合わせる。

「なにか…私どもでお力になれることはありますか?」

医師が訪ねると、クロエは一瞬迷うような表情のあとに「睡眠薬」とだけ答えた。

「わかりました。後程お持ちいたします」

そう言って部屋を後にした医師を見送ったジルは、まだベッドに腰掛けたままのクロエに近づいた。

「…私どもに言いづらい事がありましたら看護士など女性を連れてきますが…」
「…大丈夫。薬貰ったら一度寝るよ」

そういうとクロエは一度もジルを見ることなくベッドボードに背を預けて目を閉じた。

「…では内線を手元においておきます。些細なことでも何かあればお呼びください」

サイドテーブルに電伝虫を置いて、ジルは部屋を後にする。
自室に戻りながらジルはこの任務を終えてからと言うもの、クロエの様子が明らかに変わったことについて考え、細く息を吐いた。

入隊以来どんな事にもぶれることなく、部下を引っ張っていく精神《こころ》の強いクロエが見せた、初めての姿に言い様のない不安が頭を過る。

クロエの手足となり助けていると勝手に自負していただけに、強い彼女が居るという根っこがなければ途端に不安に刈られてしまう今の自分に笑ってしまう。

彼女に頼りきっていることを改めて自覚したのだった。





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