第8章 私という存在
毒に当てられてから2日。
ようやく目覚めたクロエは自室で報告を受けていた。
「捉えた者共は先に支部へと送りました。我々は回復を待ってから出航予定ですがよろしいですか」
「うん。負傷者はどのくらい?」
「外傷があるものはほぼおりません。最初の毒霧にやられていた部下はすでに解毒が終わり療養しています。暫くは働けませんが後遺症などはないだろうと言う医師の見解です」
「それは良かった」
「理由は定かではありませんが、深く昏睡状態に落ちた者程なんらかの儀式の生け贄として有意らしく、選別していたようです。」
参考文献です、と渡されたのは村から持ってきたようだ。
古い本をぺらりと捲るが、知りたいのはそれじゃない。
「あなたに使われた毒は2種ありまして、ひとつは神経系に支障をきたし死に至らせるもの、もうひとつは物理的に触れたものを溶かすもののようでした。文献が多く残されていたので解毒もなんなく終わりました」
至るところに巻かれた包帯を指差されながら痕は残らないみたいですよ、と追加される。
どうやら皮膚が溶けて無惨な状態だったらしい。
そんなむごい状態を見なくて良かった。
「あと、石は貨物室に保管してあります」
「色々面倒かけたね…あとで各所確認に行くよ」
「治ってからにしてください。あなたが一番安静にしてなきゃならないんですからね」
「……」
「見張りますよ」
「…わかった」
動くな、と再度念を押されて仕方なくベッドに潜り込む。
ジルが退室してからデスク脇に置かれた古い本を手に取る。
これは意識が落ちる少し前、ジルにだけ指示したもの。
誰にも見せるなと言い拾わせておいたものだ。
本を開き、ペリペリと脆くなったページを捲っていく。
(古代文字なんて読めないよ…)
全てがこの文字。
溜め息を付いて本をデスクに戻した。
私の何が世界を滅ぼすと言うのだろうか。
生まれてこの方前世の記憶があるだけで他に目立った特殊能力などない。
変な紋章のようなアザもなければ万物の声が聞こえたりするわけでもない。
結局自分で考えたところで分かるわけでもなく、この件は帰還後にあの老人を再度問いただす必要がある。
仕方なく今は考えることを諦めて、ジルの持ってきた報告書を手に持ちベッドから降りた。
(今回の目的のポーネグリフでも見に行くかな…)