第8章 私という存在
「擦った毒で死ぬかもしれないけと串刺しよりはましでしょ?」
「なにを…」
膝を付く老人の首根っこを掴み、武装硬化する。
天井を見上げれば、突き出た刺に光る毒。
武装でも毒の効果はあるんだろうか。
いよいよ左右の刺が体に触れそうな頃、剃で飛び上がる。
迫る刺を武装した腕で壊しながら一気に天井を突き破った。
(っち、やっぱり…武装した体でも効くってことは鉄でも融解する猛毒じゃないか)
じゅ、と擦れたところが小さく煙をあげる。
最小限には留めたが、壊すときにどうしても刺に触れる。
痛む箇所を見ながら揺れる視界に耐える。
「この檻を壊すとはな…」
「…えらく頑丈だったね」
地面に降り立ち老人を地に押さえつけた。
もはや抵抗はなく、崩れる檻を見ながら呟いた。
「あれは代々伝わる仕掛けでの、作られてから起動させたのは初めててだ」
老人曰く、過去にわたり、私がこの地へ訪れたのは初めてだとか。私を滅することを目的としてきたこの一族が、もしこの地での捕獲または殺害の機会があればと用意していたらしい。
過去最高の毒物に、それに耐えうる頑丈な檻。長い年月で改良を加えて待ち、満を持しての起動だったが毒物への耐性があるとは予想外だったようだ。
「だがいくら毒への耐性があろうと、即死しないだけでいずれは死ぬ。もうそろ視界も危ういだろう?」
老人の言うとおり、視界は霞むばかりでほとんど見えていなかった。
「まぁ、ね…まぁ後の事は私の超優秀な部下に任せることにするよ」
ぐらりと体が傾いた瞬間、がっしりと体を支えられた。
やっぱり頼りになる。
「ほんと貴女は一人で無茶しますね。なんですかこの状態は」
抱きとめてくれたのはジル。
がやがやと声が聞こえることから他の部下も来たのだろう。
押さえつけていた老人と引き剥がされ、ジルが預かりますと言う。
「石も確保し仲間も全員保護しました。船医に毒も採取させましたので、船へ戻りますよ。それまでその毒に耐えてくださいね」
「はは…頼むね」
うっすらと見えるジルのシルエットにへらりと笑う。
あきれた顔を向けられているのだろう。
「クロエよ、我らに勝とうとお主を狙うものは他にも存在するぞ。その命は常に狙われるからそのつもりでおることだな」
離れていく老人の声を最後に、意識が落ちた。