第8章 私という存在
「悪であるお主は従者を従え必ず時代の節目に現れる。そして気紛れに世界を壊してゆくのだ」
「なんの話だ」
「お主の過去よ」
「そんな過去は…」
「ない、と言い切れるのか?」
「……」
幼少の頃甦った前世の記憶。
ならばまだ思い出せていない記憶があるのだろうか。
老人の言うとおり、ないとは言い切れない。
「我らはそれを阻止してきたのだ。現世のお主は何故か海軍にいるが関係はない。従者となろう部下もろとも葬ってやるわ」
老人が祭壇に上るとスイッチを押す。
辺鄙な田舎の村には似つかわしくない機械音が響く。
祭壇を囲むように杭がせりあがり、ものの数秒で狭い檻が出来上がった。
「逃がしはせん」
老人が手に持った玉のようなものを投げつけてくる。
払い落とすように得物をふれば当たった瞬間に玉が割れ紫煙が目の前に広がった。
「直接当たれば人は耐えられんのだが…」
「げほっ…あ、いにく…耐性があるもので」
後退して直撃は免れたが少し吸い込んだ煙。
ぐらりと揺れる視界だが、離れる際に放った刃は届いたようだ。
「相当な深手のようね…」
「油断もすきもあったもんじゃないのぉお主」
腹部を庇いながら檻の角に身を寄せると、再びなにかを押す。
がちゃん、と重い金属音がすると囲いが狭くなるよう檻が動き始める。
「本当に私と死ぬつもりなのね…」
檻から付き出してきた針。
そこにはテラテラと光る粘着性をもつ液体が塗られている。
「我らの森は猛毒の植物が多くてな。毒物には困らんのだよ。お主もその毒で死んでくれ。なに、猛毒だから一瞬であの世に行けるぞ」
「私は毒に耐性があるんだ。簡単には死なないよ」
「ならばもがき苦しみながら死ぬがいい。己の体質を恨みながらな」
刃が交わる音に加えて檻が動く音。
いよいよ狭くなってきた囲いの中、助けを呼ぼうにも部下達ではこの檻を壊すことはできないだろうし、仕掛けを解除させる前に串刺しになるだろう。
囲いが3mもなくなった頃、老人がついに膝を付き倒れる。
致命傷はないにしろ蓄積されたダメージに体が付いていかないようだ。
「触れただけで毒は回る…もう諦めよ」
「…しょうがないね」
1mに狭まった。
触れても回る毒。だが解決策を見つけられなかったのだから最後は力任せで壊して出るしかなさそうだ。
串刺しになるよりは、毒にこの体が耐えることに賭けよう。