第8章 私という存在
クロエは静かに目を閉じる。
見聞色の覇気は苦手なんだ。集中しないと。
船が停泊している辺りから徐々に範囲を広げていく。
船内には部下しかおらず敵はいなかった。
島に意識を移すと広大な森が広がっている。所々伐採されているところがあるから小さな集落があるのだろう。
その辺りに当たりを付けて深く意識を向ける。
集落のひとつに世話しなく動きのある集落を見つける。
人が大勢集まっている。
(ここ、かな?)
まだ人の感情等は感じ取れない。まだまだ鍛練が必要だな。
他にも人が集まる場所を見つけてから意識を船に戻した。
(さて、救出と石の確保に向かいますかね)
ジルが丁度戻ってきたところで報告を受ける。
事前に入手しておいた島の地図と先ほど調べた位置を照らし合わせる。
「では3班に別れましょう。疑わしい場所に向かう班が2班、石の確保に1班で」
「私は救出に動くから2班は任せて。ジルは石のほうに集中して」
「わかりました。人選終了後出発します」
動けるものを集めてぱぱっと班分する。
口挟む間もなくジルは指示をだし、部下達も当たり前のように自分に適した班にわかれていく。
うん、よく教育が行き届いているね。ジルのお陰だ。
救出に向かう2班はそれぞれで動いて貰い、私はフリーでそれに付いていく。
規模の大きい集落のほうに向かうと、そこには船に侵入したやつらと同じような仮面をつけた男達が慌ただしく動いている。
松明に照らされる村を物陰に隠れながら進み、状況を把握していく。
なにやら儀式のようなものを行おうとしているのか、禍々しい装飾の祭壇が設置され、その回りにも村人が付けているような仮面の人形が並べられている。
「クロエ中将、我々はこの集落の奥へと進みます。何かあればご連絡を」
「わかった。気を付けてね」
「はっ」
班のリーダーを任された男が敬礼をして去る。
クロエはひとり、その儀式の準備をしている集団の背後にまわり、会話を聞き取ろうと忍び寄る。
「船に向かったモノ達は戻ったか」
「まだです」
「んん…遅いな。敵に見つかったのやも知れん」
「追加で向かわせますか」
「あの女を捉えられんことには儀式もままならんからのぉ」
祭壇前の一際装飾が多い椅子。
ここの長だろう老人が腰かけていた。