第8章 私という存在
倒れている部下達を起こしていくが、大半は目覚めるが、ごく少数は目覚めない。
そして目覚めないものは一様にして酷くうなされている。
「深層心理に訴える類いのガスですかね…」
ジルに起きる迄の事を聞いてみれば、重くはないが、トラウマな出来事をリアルかのように見ていたという。
(皆が皆重い過去を持つわけではないが…起きたのは普通の人生を送れた子ばかりだな。問題は眠ったまま起きないやつらだ)
調査書で読んだだけだが、どの部下も眉をしかめてしまうような過去をもっている。
「とりあえず艦内中で寝てるやつを起こして回れ」
見つけた部下を手当たり次第起こしていき、まずは医務室を目指す。
この霧の正体と、毒ならば解毒をしてもらわなければならない。
ジルを伴い艦内を奔走していると、先ほどの集団と鉢合わせた。
「ジル行ける?」
「もちろんです」
獲物を手に走る速度をあげて敵に突っ込んでいく。
「いたぞ、あの女だ!」
離れたところにいた敵の一人が叫ぶ。
指差す先はクロエ。
(私を狙ってる?何故…)
この集団の中で指揮取っているだろうリーダーらしき男を見つける。
一先ず蹴散らしたらその男を生け捕り、尋問せねばならない。
「ジル、あの赤い仮面のリーダーっぽい男生け捕りで!」
「了解しました」
戦闘能力はあまり高くないのか、単なる探索班なだけなのか。
たいした時間もかからずに討伐を終えて獲物をしまう。
ジルに指示して捉えた男の仮面を剥ぎ取ると、苦い顔をして睨んできた。
「私を狙ってるのか?」
「…話すことはない」
狙っていたことは間違いなさそうだが、喋る気もないようで奥歯を噛み締めている。
(ん…?)
やばい、と思った時には男が痙攣し始めていた。
「毒だ!」
吐き出させるように体を押さえるが、既に飲み込んでいた。
「がぁっ…っ…」
「くそっ」
かくっと力が抜け、うつ伏せに倒れる男の口からは飲み込みきれなかった毒が漏れる。
情報源が自害したことによって、連れ去られた部下達の行方もわからなくなってしまった。
「どうします?」
「判別できるかわからないけど、覇気で位置探ってみる。その間邪魔されないよう周囲の事頼んだよ」
「わかりました」
ジルは再度船内の確認など指示するために動いた。