第8章 私という存在
冬島気候なこの辺り一帯に落ち着いて治癒できる所など宿をとるしかないだろう。
連泊できるほどの金品を持っているようには見えない。というか手荷物ないよね。
「私には病気を治す手助けなんかできないけど、宿を提供するくらいならお手伝いできるよ」
「は?」
「助けたついでだよ、ここで体を治すといい」
ちょいちょいと自身の家を指せば目を見開いた男の子。
親はと聞かれれば独り暮らしと答え、
俺は元海賊だぞと脅すようにいわれれば弱りきった非力な子どもくらいなんとでも出来ると笑い返す。
金持ってないぞというが、金目的ならばそもそも誘ってない。
「後見人から生活費もらってるし、自分でも趣味程度だけど働いてるから子ども一人増えるくらい全く問題ないよ」
「お人好し」
「そうでもないよ」
呟いてブランケットを頭まで被りなおした彼は寝ると小さく言った。
「あ、寝る前にひとつ質問」
「なんだ」
「名前は?わたしはクロエ」
「…トラファルガー・ローだ」
すっぽりとくるまって見えなくなった新たな同居人。
「これからよろしくね、ロー」
返事は帰ってこなかったがしばらくして聞こえてきた寝息に笑いながら、同居人が増えたことをクザンに伝えるために電伝虫を手に取った。