第8章 私という存在
「ひどい熱はこの雪とかのせいだけじゃないね。病が進行してるんだ」
一通り診察してくれた彼は悲しそうに告げた。
残り少ない命に気付いたのだろう。
「この子を預かろうか?」
「先生がこれ以上手の施しようがないというなら、ここでも同じですから私が診ます。ありがとう」
「そうか…何かあればいつでも呼んで」
「はい」
道具をしまって帰っていくおじいちゃん先生に頭を下げる。
ついでにと言ってクロエでは出来なかった背中などを拭き、きちんと衣服を着させてくれた。
相変わらず苦しそうに息をする彼だが、あの寒さの中よりはいくぶんかましだろう。
疲れて眠くなったクロエは、薬屋のおばさんが来るまでの間仮眠をとろうとソファにもたれ掛かりながら目を閉じた。
彼が目を覚ましたのは翌日の朝だった。
薄く瞳を開けて辺りを見渡し、クロエを見つけると睨むように目を鋭くさせた。
「だ、れだ…」
掠れた声で問われれば「きみを助けた人物だよ」と答える。
それに少し目を開き、自分の体や辺りを注意深く眺めた。
起き上がろうとするのを手伝おうと手を差し出せばパシリと振り払われた。
警戒心の強い子だ。
「世話になった…もう出ていく」
「熱下がってないし、体キズだらけだよ?」
「自分で治せる…」
「治せなかったから倒れてたんでしょ」
「……」
「それに外はまだ大雪だよ。船も出てないから街から出られない」
「……」
押し黙る彼に、もう少しここにいなよと言えば立ち上がりかけていた体をソファに戻した。
「もう見ちゃったから聞くけど、それ珀鉛病だよね」
「…っ」
「あぁ警戒しないで、偏見なんて持ってないしそれが中毒で伝染病でないことなんて知ってるから」
緊張する男の子にへらりと笑えば強張った表情をすこし和らげた。
「きみはその体でどこに行こうとしてたの?病院?」
「…目的地はない。ただ体を落ち着いて治す場所を探してた」
「治す…?」
確か治療法はなかったはず。だからフレバンスは滅ぼされたのではなかったか。
「おれの、能力で出来る…らしい」
「能力って、悪魔の実とか?」
そんな実があるのか…
「だから天候がおさまれば出ていく」
「んー…」