第8章 私という存在
病気より先にこのままでは凍死してしまう。
男の子を背に担ぎ上げ、引き摺るように歩く。
とりあえず近いから家に行って暖めなければ。
豪雪になってきた道を息を荒くしながら進む。
子どもでも同じ体格の子を運ぶのは骨がおれる。
大人でも通ればいいがこの雪ではだれも外出していない。
いつもの倍以上かかりながら家に着くと、とりあえずソファに背中から落とす。
自分の息も荒いがこの男の子の息も荒い。
顔をみれば熱が出ているのか汗だくで顔が赤い。
暖炉に火をいれて部屋を暖めながらどうするか考える。
(とりあえず布団と毛布と着替えと、えぇっと…)
自分もこの男の子もびしょ濡れだ。
着替えが先だと思い自分のスウェットを出す。
申し訳ないと思いながら脱がしてあげるだけの力はないから服をハサミで切る。
全身に広がる白い痕に顔を曇らせながら濡れた体をふいていく。
(うーん…下は穿かせられるけど上は力なくて厳しい)
しょうがないから前開きのパーカーを前後逆に被せるように着せておいた。
分厚いブランケットを彼に巻き付け、ソファをなるべく暖炉に近づけるように全身を使って押し動かす。
(つ、疲れた…)
ソファにもたれ掛かるようにして座る。
意識のない人間は重たい。
そして自分と同じ大きさの人間ならばなおのこと扱いづらい。
(あ、医者呼ぼう…)
ずりずりと這いながら電伝虫を取り、町医者に回診を頼む。
こんな豪雪でも来てくれるんだから医者は良心の塊だ。
息も落ち着いた頃、自分も着替える。
そして薬屋のおばさんにも電伝虫をかけ、事情を説明すればお休みをもらえた。
更にお店を閉めた後に薬など必要なものを持って訪ねてくれるとのこと。ありがたい。
ボウルに水を張り、手拭いを濡らして男の子の額に乗せていれば町医者のおじいちゃんが来た。
「これは…珀鉛病の子だね。生き残りがいたのか」
このおじいちゃん先生じゃなければ医者には見せられなかった。
この病気をクロエが知っていたのは彼のお陰。
薬屋をやっているなか関わりのあった彼と勉強会と称してよく話を聞きにいっていた。そこで近年騒ぎのあったフレバンスについて話していたのだ。
正しい知識を持ち、偏見のない彼は信頼のおける医者だ。