第1章 今の二人
『おまたせ。待っててくれたんだね』
「…お前が電話を切らなかったからな」
『もう少し話そうと思ってたからね。切られなくて良かった』
一段と低く出てしまった声に気づいているだろう彼女は、それでもなにも言わなかった。
少し声色には楽しさが含まれていたが。
「人を弄んで楽しいか」
だから、つい言ってしまった。
なんて女々しい。だが音となってしまった気持ちは無かったことにはできない。
『ふふふ』
「…笑うな」
『無理よ。嬉しいもの』
「……」
一見したら震え上がりそうな地を這う低い声だが、彼の人となりを知り、付き合いも長いので照れ隠しだとわかった。
怖そうな、でも遊んでそうなイケメンな外見だがその実生真面目な男なのだ。というか潔癖。
『人を弄んで楽しいか』
そう呟いた彼は、たまに嫉妬心を見せてくれる。
私の相棒とも呼べる部下、ジルにだ。
自分の、そして彼の目的のため、ローとは常に一緒にいられるわけではない。
だけれど心は割り切れるものではなくて、側にいられない寂しさと、他の男が自分よりも近くにいる状況に心が限界になってくるとこうして嬉しい言葉や態度となるのだ。
「楽しみよ、ローに会えるの」
『最低でも3日は休暇取れよ』
「3日でいいの?」
『……』
「私はそれ以上ローと過ごしたい。だから長期休暇取れるようにお仕事頑張ろうかな」
『…あぁ』
はは、照れてる照れてる。
素っ気ないたった一言でも私にはわかる。
暫く会えていなくても、そんなところは昔から変わらない可愛いところで、心が暖かくなった。