第6章 休暇(後半)
「本当に、どうしちゃったの…」
珍しいこともあるもんだ。
バルコニーに出てお酒を酌み交わし、ポツポツと会話しながらしっぽり飲んでいたのだ。
だが途中からローが体制を崩してだらけ、終いにはクロエを呼び寄せて(しかも隣に座ってるのに能力使って)跨がせると、体を引き寄せてキスをしてきた。
まぁ、ここまではいい。
だがその後もキスの雨はやまず、酒を口に含んだかと思えば口移しで飲まされ、そのまま頬や耳や首にとありとあらゆるところにキスをする。
酒瓶の中身が無くなってからはひたすらにぎゅっと抱きついては触れるところ全て甘噛みしていく。
甘ったるく甘えてくる姿が珍しすぎて、アルコールに浸っていた体が衝撃で覚めてしまった。
(ネコみたい…)
首筋にすり寄っているローの頭を撫でながらそんなことを思った。
「お前、もう酒場行って飲むのやめろよ」
ポツリと呟かれた言葉は小さすぎて、聞き逃しそうなほどか細かった。
顔は見えなかったけど、帽子もなく丸見えな耳は真っ赤だ。
「どうして?」
なんとなく今日の流れからその理由は分かっていたが、言わせてみたかったから意地悪く質問を返した。
案の定イラついたようで、掴んでくる力が強い。
わかってるんだろうが、と睨んでくる眼力は凄まじいものがあるが残念ながら頬が少し赤いから威力激減のうえ可愛さ倍増だ。
緩む口許に噛みつくようなキスをされても怒れなかった。
「わかったよ。大人数で、とかだったら行っても良いでしょ?部隊の子達とかと」
「まぁ…」
渋々譲歩してやる、て顔してる。
(本当に顔に似合わず甘えたがりな男だよな…)
瀕死の彼を助け、少年時代を共に過ごしたからか妙に懐かれた感は否めない。
男女の愛はもちろんあるが、過去のことから保護者的な視点を持ってしまっているのが原因だろうか。
だてに前世の記憶があるだけあって、他人より精神年齢が高いからか。
(ただ…)
あんな酒場のお姉ぇちゃん達をローが相手にしないことはわかっていた。
分かってはいたが、実際にローの横に密着するように座り、彼の信頼するクルー達と笑い合い、そしてわずかでも彼に触れたのを見たとき。
(グラスを割るかと思った…)
たかがあれだけの光景に嫉妬するとは自分もまだ青臭い。
気付かれる前にローが自滅してくれて良かったと心底思った。