第6章 休暇(後半)
「ねぇキャプテン、あれクロエ…だよね?」
酒場に着き、席に着けば遠くから幼馴染みの香りがした。
そちらを見れば見た目は全くの別人だが確かにクロエが座っていて、キャプテンにそちらを指差して教える。
クロエは見知らぬ男と座っていたから、キャプテンに知らせたのは不味かっただろうかと顔を見ても少し眉をしかめた程度で、いつもの顔。
嫉妬するかと思ったのに予想が外れた。
「今声掛けたら不味いよね…」
「まぁな」
飲兵衛のクロエは一人でよく酒場へと行き、飲み友達を作ってくる。だから彼女は顔がとてつもなく広い。
だけど今回はあまり得るモノの無い残念な相手だったみたいで、顔は笑っているがつまらなさそうだ。
それから特にキャプテンはクロエを呼ぶこともなくクルーと飲んでいる。
たまにクロエの方を見てもあちらも反応しない。絶対ハートの俺たちがいるのに気づいているのに。
「キャプテン!女の子が席に着くって言ってますが、許可します?」
紅一点のイッカクが声を張り上げて男衆の中からキャプテンを呼ぶ。
期待に満ちた表情を向けるクルーに、顔をひきつらせながら許可していた。
(この女達、臭いんだよなぁ。鼻もげる…)
見えそうで見えない絶妙なラインを攻めるドレスに身を包んだ女達がわらわらと海賊達のなかに滑り込んでいく。
香水に濃い化粧、そしてお酒の匂いが充満した彼女らは、苦手だった。
キャプテンも同様で、クロエを大事にしているから付き合いだしてからどんな場でも女を隣に座らせることはなくなった。
のに!
なんでクロエが居るこの場で、女が隣にすり寄るのを黙って受け入れてるんだと声に出して怒りたくなった。
いつもなら寄るなと一瞥してシャチやらペンギンに押し付けるのに、それをしないで一緒にお酒を飲んでる。
「珍しいね、キャプテン」
トゲを含んだ声で言えば、そうか?と惚けてくる。
もう一言言ってやろうかと思ったが、彼の顔を見たら声にはならなかった。
チラリと何度もクロエを伺い見るキャプテン。
しつこいその視線、めちゃくちゃ気にしてる証拠じゃん!
他の男と飲んでるのが嫌なら素直に言えばいいし、何故やり返そうと女達を侍らせるのか。
なんて人間は面倒なんだとため息が出た。