第5章 最速・最年少記録を持つ女
尚も続く下世話な話題に、徐々に眉間のシワを深くしていくクロエ。
自分に関してそういった噂話があるのは知っていた。
自分の部下にはその噂話に乗っかるやつは皆無だが、やはり本部を離れた支部などでは噂話に尾びれが付きまくり真実など一ミリもない人物像になっていたりする。
今回の話題はまだマシな方だ。
「卑猥な意味で、男千人切りの女とか言われてた時期あったなー…」
「ナニソレ」
「実際、殴り倒した男ならそれ以上いるけどね。流石に千人相手する程私は暇じゃないよ」
「いやいやナニソレクロエちゃん。お前海軍でなにやってんの?ケンカ?」
「弱いくせに突っかかってくるのが悪い」
「そんな暴力沙汰起こしてよくクビにならないね~」
「上層部の弱みを握ることは大事よ」
「「女怖っ」」
よっこいしょ、と立ち上がったクロエはゴミを片手に次行くよと促す。
それに驚くのはまだ二つ目を手にもっているベポとペンギン。
「えっ!?まだ食べるの!?」
「お前今何個食った!?」
クロエの手に持つゴミの数を数えるペンギンをあしらう彼女はすでにマップをみていた。
「バーガー制覇するよ」
にっと笑う彼女に付いてきたことを後悔しはじめた二人だった。
「またここにもいるよ…暇だね、支部の奴ら」
「声落としなよクロエ!聞こえちゃうよ」
最後のひとつを求めて並んだ屋台で、これまた海兵を見つけた。
私服の奴も混ざっていて、休憩をかねて大勢でご飯を食べているようだった。
せめて軍服を脱げと思うのだが、この服の人物がいるというだけでも悪い奴らの牽制になるのかと考え直した。
『……クロエ中将が……』
ぼそっと微かに聞こえた中に自身の名前。
またここでも噂されてんのかとペンギンは呆れ顔。
『あの、俺入ったばかりで分からないんですが、クロエ中将はどうしてそんなに話題になる人物なんでしょうか。中将なら他にも沢山いらっしゃるのに、支部に顔を出されただけで話題に上るのは彼女ばかりで…』
ザ・新人な青年海兵がザ・中堅なオッサン海兵に聞く。
俺も気になる、とばかりに聞き耳をたてはじめたペンギンとベポ。
『あの方はな、数々の記録を打ち立てている人なんだ。一番有名なのは海軍史上最速、そして最年少で海軍本部中将になったことだな』
『はい、それは存じております』