第1章 今の二人
「クロエ」
呼ばれたその声に思わず眉間にシワが寄る。
あーやだやだとこれから言われそうな事に辟易しながらも、改めて眉間のシワを伸ばして顔を整えてから振り返った。
「なんでしょうか、サカズキさん」
「おまえ、」
そこで言葉を区切るサカズキ。
こんなことを言わなきゃならんこと自体、裏切りだ!とでも言いたそうな顔をしながらサカズキは続けた。
「おまえ、ワシに能力使わすような真似をするなよ」
「どういう、意味でしょう」
サカズキの能力を使う、すなわち敵と見なされ粛清されること。
それをさせるなと忠告してくるとは、苦笑しかできなかった。
「おまえは危うい。そしてその力もだ。正しい場所で正しく学ばねば自身が破滅するぞ」
「ご忠告痛み入ります。肝に命じますね」
次の言葉を発せられる前に一礼してそそくさとその場から退散する。
サカズキはまだなにか言いたそうだっだが、青キジが割り込んだためにそれ以上何かを言われずにすんだ。
(ありがと、おじさん)
肉親の吉身かクロエに甘い青キジに感謝を心で述べ、ジルを伴い自室へと戻った。
「ジル、出港準備はどれくらいでできる?」
自室に戻ってからは本部を離れる準備をする。
隊や自身のスキル向上のため帰還していたが、もういいだろう。
古参達の(とくにサカズキとおつる)小言が厳しくなってきたから逃げたいし、久しく会っていない友に会いに行こう。
二日後には準備が整い出港できると返事をしたジルも、今は自身の準備のため退出していた。
(あぁ久々だ。近くにいるといいな)
もはや仕事の事など頭にはなく旅の末の旧友との再開に心躍るのだった。