第3章 休暇(前半)
「どっちが強いかなんて、わかりきったことだろ」
ポスっと頭に乗っかる腕に、周囲のハートのクルーは目を点にする。
それもそのはずで、久しく見ていなかったキャプテンが急に現れ、シャチのデート相手だと紹介された女性にやけに馴れ馴れしく絡んでいる。
「力でもベッドでも俺に勝てたことあったか?なァクロエ」
「……」
ぽかーんとする周囲に顔がごめんなさい、と言っているシャチ。
「それに俺を放置してほかの男とデートするとはいい度胸じゃねェか」
「はぁ…それはローが起きないのが悪いでしょ」
頭の腕をぺしっと叩き落とし、足を組んでそっぽを向いた。
それが気に食わなかったローは緩く巻かれた髪に指を絡め、隠れていた耳をするりと撫でた。
「普段しないような恰好して男どもに晒して、どんだけ俺の神経逆撫でしてェんだ」
「今日はシャチとのデートだから、彼好みにしたのよ」
「クロエ、頼むから引き合いに俺を出さないでくれっ」
泣きそうなシャチを放置してローの怒りボタンを一つずつ押していく。
クロエだって昨日の仕打ちを怒っているのだ。
合わせようとしない顔にイラついたローが顎をつかみ無理やり顔を向かせる。昨日首に付けた噛み傷が跡形もなくメイクで消されていて余計にローの眉間に皺が寄った。
「痛った!傷跡擦らないでよ!」
「男避け隠してんじゃねェよ」
親指でグリグリと分厚くカバーされたそれを拭っていくロー。
クロエは腕を掴んで止めさせようとするも見事に傷跡は復活し、無駄に終わった。
つんつんするクロエと、ガミガミ怒るロー。
ショックから回復しつつあるハートのクルーがそんな二人を遠巻きに眺めていた。
いつものクールなキャプテンはどこへいったのか、目の前にいるのは嫉妬丸出しの男。
彼の視界にはクロエしか映っておらず、クルーがいることに気付いているのだろうか。
いや、気付いてはいるがスルーされているのが正しい。
「シャチ、なんだかキャプテンに親近感がわいた」
「俺は見慣れてっけど…キャプテンクロエが絡むとアレがデフォルトだから」
「クロエちゃん、だいぶ印象違くねぇか?」
「あっちが素だよ。バレないようにってキャラ被ってただけ」
きらっきらに輝かせていたクロエの顔は、今はジト目にへの字の口だった。