第20章 番外編 勘違いから始まる
大切なものはいつも失くなってしまう。
だからか今一歩、人との距離を詰められず、失っても自分の心が守れる距離を保つようになった。
大切なものを作るのが怖い。
いつか失うのならば、初めから作らなければいい。
だけど心というものはコントロールが効かない。
いつの間にか心に入り込んだ存在に気付いた時には、手遅れなほど情を持ってしまっている。
既に手放せないのならばこれ以上深入りしないよう、距離を保ちながら接するしかない。
己の復讐に巻き込まれぬように。
失わぬように。
自分の側でなくても生きていてくれるように。
そう思っていた。
ベポ達と違ってクロエの存在はとても複雑で、共に成長してきた幼馴染みありながら、家族のようでもあり、そして恋人でもある。
そんな彼女にこれ以上ハマってしまっては、復讐に己の全てを懸けられなくなってしまう。
命さえもなげうつ覚悟で挑まなければならない。
だからたまにしか会えないこの関係性は心を落ち着かせたし、クロエもこちらに傾倒せず芯があり、責任ある立場で働いていることに安心していた。
なのに…
「お前が他の男のものになるって現実が突きつけられた瞬間、心臓が潰れるかと思った」
考えてはいた。
いつかは心変わりだってするときが来る。
自分ではない男との未来を歩もうとするかもしれない。
変な話ではあるが自分から離れていく時の事を想像して付き合っていたのだ。
恋人でなくとも幼馴染みの関係性があればいい、と。
しかし実際は息が詰まり、二度と感じたくなかった喪失感に全身が支配された。
ベポがいたから己を保っていられたが、独りだったらどうなっていたことか。
「俺の考えが…甘かったんだろうな。予想以上にお前にハマってたんだ…」
もう手放せないくらいには。
なにが離れていくときの事を想像してた、だ。
嫉妬で狂いまくって暴挙に出たくせに。
「もうお前を家族とも幼馴染みとも思えねェ…俺の女じゃなきゃダメだ」
思いの丈がするすると口から出る。
こんなにも心情を吐き出したのは初めてではないだろうか。
少し気恥ずかしさもあるが、心なしかスッキリとする。
話している間一言も発しない挟まないクロエをちらりと見た。
「…っ!」
目尻を赤く染め、くしゃりと破綻した幼い笑顔に、心臓が鷲掴まれたように苦しくなった。