第20章 番外編 勘違いから始まる
もう何年も見ていなかったクロエの心の底からの笑顔がそこにあった。
クロエは昔から大人ぶる(前世を合わせれば相当な精神年齢だから仕方がないのだろうけど)癖があり、まだまだガキな俺たちの面倒を見てきた為か、微笑んだりニヒルな笑みはあっても、ガキのように心底笑うことはあまりなかった。
子供の頃には少なからずあったそれも、青年へと成長するにつれてほとんど見なくなってしまった。
それが目の前にあって、唇を噛み締めていた。
「…ありがとう」
クロエは一言呟いて目尻に溜まった雫を手で拭った。
「家族愛と異性への愛を間違えて付き合ってる訳じゃないんだよね?」
「…なんだ、それ」
「幼い頃から側にいる女って私しかいなかったから勘違いしてるのかなって…」
「んなわけあるか」
ダルい腕を伸ばしてクロエを抱き寄せる。
ただ抱き締めるだけなんて、情事以外では最後にいつしたかなんて分からない。
そんなことも、してこなかったのか…と反省しかない。
セフレと違わない扱いに、よく文句も言わず付き合ってくれていたものだ。
「…まだ俺の側にいてくれるか?」
首筋に顔を埋めるクロエを撫でながら問う。
離れるとは思っていないが、自分のしでかした事への許しがほしかった。
「もちろん。ただ私も許して欲しいのがあって…」
もごもごと言いにくそうに言葉を濁すクロエ。
続きを促すように後頭部を撫でれば、むくりと起き上がったクロエが、何故かバツの悪そうな顔で見上げてきた。
「自白剤ってのはウソで、ただのビタミン剤なの」
ひきつりそうな顔をごまかすために、クロエの唇に噛みついた。
end.