第20章 番外編 勘違いから始まる
「久しぶり!」
にっと口角を上げて片手をあげる。
恋人との久々の再会だが、熱い抱擁など私たちの関係にはない。
見た目からしてドライな目の前の男は、案の定ドライ。
もちろん愛情は少なからずあるだろうから付き合っているのだし、彼なりに恋人として扱ってくれているのも分かるから文句はないのだけれども。
「…なんで不機嫌なの」
それも超、のつく程。
挨拶にも返事を返してくれず、ただ頭上から見下ろしてくる。
身長差があるため、不機嫌なときに間近で見下ろされると結構怖い。
「なんかタイミングが悪かったなら別の日にっ…わっ」
出直そうかと思ったら無言で二の腕を掴まれ引き摺るように強制的に歩かされる。
どこ行くの、とか自分で歩ける、なんて言葉は綺麗に無視される。
なんでこんなに怒っているのだろうか。
皆目見当がつかない。
宿泊用に取っていたのだろうホテルの部屋につくと乱暴にベッドに放り投げられる。
バランスが取れず顔面から倒れると、起き上がる間もなくローが体を押さえつけるように背に乗ってきた。
「ちょっと、いくらなんでも酷…」
「昨日は楽しかったか」
「は?」
やっと喋ったが、意味が分からない問いにムカついてくる。
眉間に皺寄せて振り返るが、見上げたローの顔は恐ろしい程に無表情で背筋が凍った。
「昨日って、なに…」
「海軍で遊び相手見つけたのか?…あァそれとも俺が遊び相手か」
たまにしか会わねぇから好都合だよなと言うローに、なんのことか必死で頭を働かせる。
遊び相手とはつまりそういう相手で、そうローに思わせる可能性があるとすれば…昨日の夜の任務か?
「あれは…」
「言い訳とかは別にいらねェよ。いい大人なんだ、すきに遊べばいい」
言葉を遮られ、なにやらマイナスな方へと自己完結していくロー。
これは不味いと慌てて身を起こそうとすれば、ローが身に付けていたマフラーで後ろ手に縛られる。
「はなし、聞きなさい…よっ…」
「うるせぇ」
首だけ振り返った体勢から無理矢理ひっぱられて口を塞がれる。
仰け反る背中が痛いし、なんなら掴まれ引っ張られてる首から頭にかけて全部痛い。
そして容赦なく口内を荒らす舌が苦しい。
顎に垂れた唾液をべろりと舐めとったローは、クロエの目に涙が滲んだ頃、漸く頭を離す。
力なくベッドに突っ伏す姿を見て鼻で笑われた気がした。