第20章 番外編 勘違いから始まる
ある冬島に上陸したときだった。
クロエと会う前日に島に着いたハートの海賊団は久々の陸地を楽しむべく酒場に集まる。
船長であるローも同席していたが、降り積もる雪が懐かしくなったベポに付き添うように早々に酒場の外へ出いた。
「たくさん降ってるね。過ごしやすい」
「今までは暑かったからな」
夏島から一転、冬島気候に入っていたため、過ごしやすいベポはご機嫌だ。
シンシンと降り続く雪を積もらせながら、人気のない大通りを歩く。
時たま雪の塊に突進していく白熊を眺めながら歩いていた時だった。
「あれ、クロエじゃない?」
大きい通りの反対側にいる男女。
その女の方はベポの言う通り明日会う予定のクロエだった。
いつもとは真逆な派手目な服に身を包み、服に合う化粧をしている。
遠目では彼女とわからないくらいの変わりようだ。
「見たこと無い格好…あんな派手な服も似合うんだね」
「…」
「隣の人、同僚かな?」
だったら海兵だよねとベポは言うが、そんなことはどうでもよかった。
先程から親密と取れるくらい近い距離に、男はクロエをエスコートするように背に手を回している。
仲良さげに寄り添って歩き、時々互いの耳元に唇を寄せて話をする姿をみて、体の何処かでギリッと音がした。
「あ、行っちゃうよキャプテン…」
「……行くぞ」
通りの角で立ち止まっていた二人は顔を近づけて何かを話し、そのまま細い路地へと入っていった。
同僚としては親密すぎる様子にアタフタとするベポから鬼哭をもぎ取ると、道を横切りクロエが入っていった細い路地に身を滑り込ませた。
追ってどうするのか。
鬼哭を手にするなんて、それでどうしようと言うのか。
クロエがどこで何をしていようといいじゃないか。
恋人の関係だが、束縛なんてしようと思ったことなど無い。
何故追っているのか自分の行動に疑問が浮かぶが、心が酷く焦っていた。
自分を落ち着かせようと深く呼吸をして歩みを進める。
ところが路地はすぐに行き止まりになった。
「あれ、居ない…」
ベポが後ろを振り返るがここまで曲がるところは無かった。
忽然と姿を消した二人に舌打ちした。
再びもやもやとドス黒い感情が心に広がる。
なんだっていうんだ。
イライラが止まらない。