第14章 番外編 ハートの1日
「クロエッ!」
誰かが叫ぶ。
柵を越え、宙へと投げ出されたクロエにローが慌てて手を翻し能力を発動させる。
青いサークルがクロエを捉えるのが先か、海へ落ちるのが先か。
泳げないことはないが荒い新世界の海。落ちた途端に深海まで引きずり込まれることもある。
誰もが焦った。
「っ…」
海へと体が接触する寸前、海面を蹴るように跳躍するクロエをローが捕らえた。
タクトで引き上げられたクロエは着地をうまく出来ず、足を庇うように踞った。
「悪い、クロエ!」
「大丈夫か!?」
駆け寄ったペンギンと仲間たちにへらりと笑い大丈夫と答える。誰の所為でもないでしょと言えば、ペンギンはポンポンと頭を撫でて"それでも次は気を付けるよ"と苦笑した。
「剃、だったか」
「うん、不格好だったけどできた」
庇う足を一通りチェックしたローは空を蹴るCPが得意とする体術に筋肉が耐えたことに感心しながら、湿布を引き寄せてきてぺたりと患部に張る。
あれは鍛えられた完全な肉体がなければできない六式のひとつ。
まだ筋肉が追い付かないだろうと実践でやってこなかったが、落ちる寸前でダメもとでつかってみたのだ。
一回だけで、海面も手伝っての無様なものだったが飛べた。
「すげーな!間近でみたの初めてだ」
「かっけー」
海兵でも出来る者はわずか一握り。CPが絡む事件でも起こさない限り見られる可能性は低く、不格好なものでも見れたことに感動しているようだ。
「クロエは六式全て会得しているぞ」
「「「さすが闘神」」」
ローの一言にあちこちから羨望の眼差しを受ける。
突き刺さんばかりのそれらに腹を括るようにため息をつき、彼らの望んでいるだろうセリフを言った。
「…私でよければ教えようか?」
「「「まじでっ!?」」」
これを狙っていたくせに。
望むのならば教えるのは嫌ではないからやろう。
しかし私の教えは甘くはない。
海兵のときは"新人潰し"とまで言われたほど私が組んだ鍛練は過酷だったようだからな。
「言っておくけど、私は六式すべてマスターするのに数年かかった。海兵ではひとつでも習得できれば昇格する程に難易度は高く、会得は難しいもの。全員が必ずしも会得できるものではないから、それは覚悟してね」
「「はいっ師匠!」」
「…」
こうして弟子ができた。