第14章 番外編 ハートの1日
他の人に呼ばれたジャンバールとわかれ、コーヒー片手にクロエはローの部屋の隣を目指す。そこはイッカクとの二人部屋を宛がわれた翌日に新たに設けられた部屋。私のこの船での役職となりそうな、部屋。
【調剤室】と書かれたプレートのドアをあけて中に入る。
元々はローの書庫兼薬品庫だったところを改装したそこ。
広さがあるこの部屋に押し込められていた大量の本をローの部屋と別の倉庫へと分別し、空いた棚に薬品を配置し、デスクとローが管理していた調剤のための道具を並べたら簡易的ではあるが調剤室の出来上がりだ。
今までは市販品や簡易的なものならばローが調合していたようだが、私にその役をもらえた。
同居していた頃は薬屋で働いていたし、指示に沿ってではあるが調剤していた。
その経験から簡単なものであれば自分でも調合できるようには知識もついた。それを評価してのことだろう。
デスクに座り、前回の島で入手した本と新たに購入してもらった器具を並べる。
この船の薬剤師を担うには知識不足だが、時間がかかっても応えてみせる。それにはまず勉強だ。
だから午前の空いた時間などにはここに籠るようになっていたし、夜の自由な時間もここにいる。
集中しだすと周りが見えなくなり、精根尽きればその場で寝落ちしてしまう。
そんな私をローが見つけて部屋に連れ帰るのはもはや恒例となってしまった。
「丁度いい所にいた。これ補充してくれるか」
ドアをあけてローが顔を覗かせる。
隣のスツールに腰かけたローがメモを手渡し、近くにおいてあった私のマグを手に取って勝手に飲み始めたのを視線だけで抗議するがどこ吹く風。
さも自分の物かのように味わい始めた。
「傷薬の消費早いね」
「ここ最近は海獣の出没が多いからな…」
食料調達のためにも美味しいものは仕留めるし、運動したい面々は我先にと突っ込んでいくから生傷絶えないのだ。そういう私も一緒になってリハビリのため参戦しているから体中細かな傷が多い。痕もなく治るものばかりだが、女らしからぬやんちゃした痕にローは顔をしかめっぱなしだ。
了解。とメモを振ればもうすぐ昼飯だからな、と言ってマグカップ片手に自室へ戻っていったロー。
私のなのに、とその後ろ姿を恨めしく見送った。