第13章 ハートの海賊団
「またイッカクにからかわれるな、お前」
体中の所有痕と歯形。
それらを背後から見ていたローが笑う。
自分で付けておきながら他人事のように言うとは。
(私だけとか不公平…)
背を向けていた体勢からくるりと向きを変えて向き合う。
クロエの動きをぼんやりと見ているローに覆い被さり、その喉仏の少し上、頭部と首の付け根の辺りに噛みついてやった。
「い゛っ…」
さぞ痛いだろう。
私もやられた時は痛かった。涙がにじむほど。
肉も少ないそこは皮膚を噛むしかないから他の場所よりもひときわ痛みが強い。
そして急所とも取れる場所なだけに、他人に歯を向けられれば身体中を危険信号が走り、ゾワゾワとしたなんとも言えない感覚に肌が栗立つのだ。
赤く色づいたそこを満足げに撫でればギロリと鋭い眼光が飛んでくる。
そんな顔をしたって自分だって私にやったじゃないか。
これでおあいこだ、と笑ってやった。
「痛ぇな…ヘタクソ」
少し加減が間違って血が滲むそこ。
ひりひりするのか噛み痕を抑えるローの手を取り、ひと舐めすればピクリと揺れる手。
「仕返ししただけでしょ。私のように全身に付けられなかっただけ良しと思いなよ」
再び背を向けて座る。
自分に噛み癖はないし、これ以上やるつもりはない。
自船の船長がキスマークだらけというのもなんだかイヤだ。
ちゃぷ、と首まで湯に沈みふーっと心地よさに息を吐いたクロエ。
噛みついたローのことは頭から消え、酷使された体を蕩ける湯で癒す。
しかしちょっとした仕返しを終えて満足したのはクロエだけであって、背を向けられたローの顔はそうは言っていない。
離れたクロエの腹に腕を回し引き寄せれば、お湯の中ということもあって軽々と浮いてローの膝の上に収まった。
「ちょっと…」
「やられっぱなしな訳ねぇだろ」
仕返しの仕返しをするつもりかと体を捩って抵抗するクロエ。大人しくさせる為背後からがぷっとそのうなじに噛みついた。
「煽った責任とれよ」
「や、ごめん…、ムリッ…」
謝罪もむなしく、弱い抵抗の声は唇と共に塞がれた。