第13章 ハートの海賊団
「その喉元のやつ、痛かったでしょ」
顎のすぐ下。
噛みつかなければ痕をつけることができないような場所に色濃くつく独占欲の痕。
確かに昨日の夜、全身に吸い付き痕を残していったローは、最後の最後で強めの、痛みを伴う痕をそこに付けた。
下から覗き込まれない限り見えない位置だったからそのままにしたが、観察されれば隠しようもない。
「キャプテンってさ、一見クールに見えるけど仲間とか懐にいれた人間に対しては面倒見が良いし独占欲強くなるよね」
「言えてる。それに大事なものは隠しておきたいタイプ」
「そうそう!」
ローの趣味として放浪が上げられるが、純粋に一人で行動したいだけの時もあれば、仲間を危険に巻き込まないようにするための事もある。
大事な仲間が傷付かないように、己に降りかかかる厄災から宝を守れるように、自分から遠ざけるのだ。
「不甲斐ないなって、思っちゃう…」
「置いていかれるのが?」
「そう!だって、傷付かないくらいの力がアタシ等にあれば、キャプテンは連れていってくれるかもしれないでしょ」
イッカクを始め、クルーは近々あるだろうローとの別れを予感していた。
また、置いていかれるかもしれない、と。
それは長く共に旅する彼らだから感づいた事で、決して言動や航路などから分かったわけではないし、彼がそう言ったわけでもない。
ただ彼の人生を掛けて準備してきた大きなイベントがもう間もなく始まろうとしていることは、彼の顔つきからわかった。
「クロエはさ、絶対にキャプテンから離れないでね」
一番大切な宝物だからこそ、ローはこの船にクロエを残していくかもしれない。
だけどこの船の誰かではできないことが、新入りで、彼の恋人で、ローに並ぶ強さを持っていたクロエならば、できるかもしれない。
「皆の代わりに、キャプテンを守って」
約束させるように差し出された掌を見つめる。
ローの目的、コラソンの代わりにドフラミンゴを止めること。
今の自分達にはとてつもない強敵の彼には死すら覚悟の上で挑むのだろう。
それは、この船に置いていくならば自分にも永遠の別れを告げるのと等しいこと。
そんなことは絶対に許さない。
「うん。私の全てを掛けて、ローを守るよ」
しっかりと差し出された手を握り返しながら、言わないが「この命にかえても」と決意を込めて頷いた。