第13章 ハートの海賊団
夕食後、クロエはベポと浮上した船の甲板でお茶を飲んでいた。
今日は流星群が見られると何人かのクルーも同様に甲板にいる。
「クロエ、キャプテンとケンカした?」
隣で寝転ぶベポが不安げな顔をこちらに向ける。
「あ…ケンカ、って表現は違うな…。雰囲気は悪くないけど、意識的に避けてる感じかしたっていうか…変な感じがしたからどうしたのかなーって」
全くもってその通り。
ローを見るとムラっときてしまい押し倒したくなる衝動に駆られるから、なるべく一緒にいないようにしている。
クルーの前で敬愛する船長を押し倒すわけにはいかない。
不自然だよなと思いつつも、夜以外は近付きすぎないようにする他自我を保てないのだ。
いくら女子部屋確保の為とはいえ、ローの提案に安易にOK出すんじゃなかったと今さら後悔する。
ベポには不安にさせたことを謝り、避けた理由を適当に取り繕った。
誤魔化したことに心の中で謝罪し、ベポに倣って再度夜空を見上げた。
予定どおり明日には島につく。
今日の夜を越えれば明日は陸で、この疼きも解消されるはず。
思考をローに持っていかないようにベポと他愛もない話を繰り返していれば屋内へと繋がるドアが開き、匂いで分かったのか嬉しそうにベポが彼を呼んだ。
「クロエ、風呂空いたぞ」
「ありがと…う…」
かけられた声に振り返りながら返事をしたが、振り返えらなければ良かった。
風呂上がりのローは上半身裸に緩いスウェットパンツ。肩にタオルを引っ掛けていて片手でがしがしと頭を拭いていた。
それでもちゃんと拭ききれていないのか、水滴が胸の筋肉から腹筋へと伝うのを目で追ってしまう。
ひくっと喉がおかしく酸素を吸った。
「キャプテンちゃんと拭いてから出ないと風邪ひいちゃうよ」
「そんなやわじゃねぇよ」
適当なんだから、と小言を言うベポとは反対側の隣に腰かけたロー。
寝転んだ状態ではローに見下ろされる。
「イッカクが声かけろ、だとよ」
「う、ん…」
自分に影ができるくらい真上からこちらを覗き込まれる。
視線が絡みゆっくりと自分の唇を舐めるその動作や表情は、情事の喰われる時の顔。
かぁっと顔が熱くなり飛び起きる。
背後でベポが驚いた声を出すが構っていられない。
真っ赤な顔を隠すには「お風呂行ってくる」と声だけ残し、その場から逃走するしかなかった。