第13章 ハートの海賊団
夜も更けた頃。
みんなに逃げられたクロエはひとり、今は仮の自分の部屋ともなっているローの自室でソファに寝転びながら考えた。
シャチにはローの気持ちも考えろと言われたが、ここは譲れない。
私は、ハートの海賊団の一員になったんだ。
ローの女だからここのクルーになった形だが、このままこの船で生きていくのだから、みんなの意識を"ローの女"から正真正銘"ハートの一員"と変えてたい。
だから"船長の女"感を出さず"キャプテン"と嫌がらせのごとく呼ぶし、クルーの皆と長く時間を共にしたいから部屋を分けたい。
もちろん呼ばれれば部屋にだって行くし、恋人としての時間を蔑ろにするわけではない。
ようは体制を整えたいのだ。
どうすれば分かって貰えるかと考えあぐねていれば、シャワーを浴びたローが部屋へと戻ってきた。
濡れてぺたこんの髪に苦笑し、おいでとソファに座り直し、隣を叩く。
大人しく座ったローからタオルを取ると、藍色の少し固い髪の毛を拭き始めた。
「お前の部屋だが…」
小さな音量で呟くローに、頭を拭いていた手を止める。
その手を捕まれて動けずにいれば、タオルを取られて腕を引かれ、はだけた胸に顔がぶつかった。
「イッカクとの部屋、許可してやる」
「え!ほんと!?」
がばっと顔を上げれば、思考を読ませないローの表情があった。
その顔に体が危険を感じ始めた。
「…ロー?」
「ただし、交換条件、な」
その言葉は不穏な気配しかしない。
部屋が許可されて嬉しい反面、とんでもない条件を出されたらどうしようと不安が顔にでた。
「そんな顔するな。やってみたいことがあるから、これから島に着くまでの5日間、俺に付き合え」
それが条件だと言う。
言葉と共に顔に触れてくる指が甘くいやらしく思えるのはなんでだろう。
「やってみたい、こと?」
「あぁ。寝る前に一時間くらいでいい」
「今日から?」
「もう寝るだけなら、今からだな」
どうする?と至近距離で瞳を覗かれて、あぁこの感じ久々だと場違いな事を考えた。
ローの瞳を直視してはいけない。特に選択を迫られているときとか。
どうやってもローの望む答えしか言えないのは、絶対この瞳のせいだ。
「…わかった。部屋、ありがとう」
「交渉成立だ」
黄金の瞳が嬉しそうに細められた。