第12章 青紫の眼と新たな仲間
閉じたドアの前でしゃがみこむ。
欲に濡れた瞳に見つめられ、紅い舌に唇を嘗められた時は息が詰まり、全身に痺れが走った。
どくどくと下腹部に集まる熱を見下ろし溜め息をひとつ。
こちらの気も知らずに煽る女を恨めしく思う。
病み上がりとも言えない状態のクロエに、様々な感情で膨れ上がる欲をぶつけてはいけないと、医者の自分がストップをかける。
毎日繰り返される診察で何度も彼女の肌に触れ、その度に診察診察診察…と呪文のように頭のなかでリピートさせていた。
本当なら誘われるがままに唇に貪りつきたいし、やっと自分の元へと来た彼女を思う存分堪能したい。
だが行動に移せば確実に意識を奪ってしまうだろうし、なんなら彼女が意識を失っても止まらずに抱き潰してしまう可能性だってある。
無理を強いたくはないが為に、理性を総動員して握られた服をクロエの手から離した。
物足りなさそうな、そして離れたときの少し悲しそうなあの瞳。
思い出すだけで敏感に反応する自身に、勘弁してくれと息を吐いた。
翌日シャチとベポが意気揚々と診察室のドアをあけ、食堂いくぞーと朝の挨拶もそこそこにクロエを連れ出した。
「キャプテンがもう経口で栄養を取れるから食堂で飯食えって!」
「やったねクロエ。ご飯もほぼ同じもの食べられるよ!」
いつもの爆食はまだ出来ないけどね!と笑いながらもふもふの手をクロエの背に回して歩行の補助をしてくれるベポ。
普通に寝起きできてご飯も食べられるが、筋肉が衰えすぎていて、食堂に行くのもリハビリを兼ねているのだとシャチは言う。
トイレは部屋の角にあったからよろよろとしていてもすぐ行けた。
だが食堂までは遠く、揺れる船ではバランス取るのも一苦労だった。
「しんどーい…」
「頑張れ。朝飯に俺が釣った魚焼いてくれてるんだぜ」
「もう釣りしたの?早起きだね」
「いや、不寝番だったから」
「お疲れ様ですーシャチ先輩」
「おうおう有り難く食えよ!」
通常なら数分で着く距離が遠い。
あがる息に、元に戻すのにはどれだけ時間がかかることやら。
ゆっくりと進みながら食堂へと入ればロー以外の全員が揃っていてこちらを見た。
注目されたことにビックリして固まると、突如「いらっしゃーい!!」と大歓声が響いた。