第12章 青紫の眼と新たな仲間
またね、と最後の別れの言葉を言うことなく通話を終えて静かになった電伝虫。
ジルと切れずにいる事にしたが、今の私はローの為にある。
だから彼が繋がりを切れと言うのならば、ジルには悪いがそのまま電伝虫は海に捨てるつもりだ。
まずは了承を得ないと、とサイドテーブルに眠る電伝虫を置いた。
しばらくぼーっと窓から外をみていれば、静かにドアが開きローが戻ってきた。
通話を終えているのを確認したローは、診察台の近くに椅子を引いて座り、手に持っていたグラスを差し出してきた。
「飲めるか?コックがお前に合わせて作ったスムージーだ」
「ありがとう」
目覚めてから数日。
点滴をはずした後はほぼ液体のお粥からようやく柔らかめのご飯を頂けるようになった今、ローは一度に量を食べられない私の胃に対して一日5、6食持ってくる。
そして目の前のスムージーは、一日2回もあるおやつだ。
ほんと動かない割に食べてばかりの生活だ。
「ロー…ジルに連絡を取らせてくれてありがとう」
「別に…あいつからのお前の安否確認も煩かったからな。俺はもう用事はねぇから当人同士で連絡とればいいと思っただけだ」
「うん。お陰でお礼も言えた」
「そうか」
減っていくグラスの中身を二人して見つめる。
本人は認めないが、クロエの為を思ってしてくれる優しさにきゅんとするクロエと、照れから目を合わせず黙るロー。
相手は敵である海兵だから、利用するだけして放置すればいいのに律儀に助けた後の体調の経過まで教えてあげるローは、やはり根っこが優しい。
さすが、人を助けることが生業の医者を名乗るだけある。
「それで…ローにひとつ、お許しを得たい事がありまして…」
「謙っていきなりなんだ」
「この電伝虫、私が使ってもいい?」
「電伝虫を?」
「うん…頻繁じゃないけど、何かあった時にジルと連絡取る用にこのまま持ち続けたい。でも、私はこの船に乗せて貰ってるから、海軍と繋がるこれを持っていてもいいか、船長であるローの判断を仰ごうと思って」
「ひとつ聞くが、俺たちの事を伝えたのか?」
「え?ううん言ってない。誰であろうと感謝してるとしか言ってなかったから必要ないと思って」
暫し思案するかのように口を閉じたローを待つ。
空になったグラスを弄びながら待てば、まぁいいか…とローが呟いた。