第12章 青紫の眼と新たな仲間
番の電伝虫。
それをくれと言う自分に、クロエ中将はこれを持つことの意味がわかっているのか、と言う。
お尋ね者の、私と繋がる危険がわかるのか、と。
「もちろん、これを持つ意味はわかった上でお願いしています」
海兵としてあるまじきお願いだともわかっている。
こうして今連絡を取っていることも、誰かに盗聴でもされていたらと考えたら背筋が凍る。
だがそれよりも耐えがたいのは、彼女との繋がりがなくなることだった。
恋だとかの恋愛感情は全くない。
もちろん魅力的な女性だとは思うが、彼女に抱く想いはそうではない。
長年彼女と共に生きてきたからこそ、その美しいまでの強さにどうしようもなく惹かれ、崇拝と言われても否定できないほど惚れ込んでいるのだ。
彼女の手足となりたい。それは自分だけにはとどまらず、彼女の隊の人間ならば皆が同様に頷く。
うーん、とか危ないなぁ、とか呟く彼女。
申し訳ないがこちらは譲るつもりはない。
いつもはやろうとする気さえ起きなかったが、今度ばかりは彼女の否定の言葉を論破してやろうと受話器を握る手に力を込めた。
『……私もズルくなったなぁ』
「はい?」
ダメだとかそういった言葉が返ってくるものだと思ったから、間抜けな声がでてしまった。
『君のためを思うなら、捨てろと言うべきなんだよね。だけど、素直にそう言ってあげられない…』
「それは、どういった…」
『この際だから正直に言うね。ジルと繋がり続けることは、私にとってとてもメリットが大きい。それは海兵である君にとって屈辱的なとこもあるかもしれないのに、それでも慕ってくれる気持ちを利用しようとしている…』
電伝虫の顔はキリッとしていて、こちらに対して申し訳なさを見せない潔い姿勢に笑った。
下手にこちらを気遣うようならば抱く感情も違っただろう。
『ジルが繋がりを捨てないと言うなら、私に利用されることを覚悟して』
言い切ったクロエに、こちらも改めて覚悟を決める。
どうなろうと、彼女のためならば悔いはない。
もちろんです、と返せばクロエにばかだなぁと笑われた。
『よろしく頼むよ』
「えぇ。これからもよろしくお願いします、クロエ中将」
『ふふ、もう"中将"はいらないよ』
「そうでした…クロエ…さん」
『呼び捨てでいいよ?』
「……無理です」