第12章 青紫の眼と新たな仲間
クロエが初めて自分の小隊を持ったときのリーダーだったジル。
それから彼が昇進しても自分の隊を持つことなく、クロエの補佐を担い、クロエが単独で動きやすいように隊を導いた影の功労者。
自分に引っ付いてくる変わり者だと最初は思っていたが、それはすぐに無くてはならないものへと変わった。
自分の隊はジルなしでは回らない程、核の一人であった。
ぷるぷるぷると間抜けな音を出す電伝虫を見つめること十数秒。
これ以上鳴らしすぎてはダメかと通話を切ろうとすれば、がちゃり、と電伝虫はこれまた間抜けな音を出した。
「……」
掛けておいてなんだが、この向こうにいるのはジルだろうか。
数日前にローが掛けたときは本人だったようだが、今はわからない。
どうしようかとあれこれ考えていたら、向こうから話し始めた。
『クロエ中将ですか?』
やや確信をもって尋ねてきた声の主は、いつも聞いていた懐かしい声。
少し涙腺が緩む。
「ジル…」
『クロエ中将ッ!!ご無事でっ!』
「うん」
食い気味の通話に苦笑しつつも、盛大に安堵のため息を付く電話の向こうの男に久しぶり、と返した。
『本当に……本当にビックリしました』
「ふふ、私も同じだよ」
『記事の内容、嘘ですよね?』
ポーネグリフの研究により逮捕。
鼻っから信じていないジル。
そりゃそうだ。部屋の整理整頓を始め、なにからなにまでクロエと共にいたジルから隠れて研究など無理だ。
こんなところでズボラな丸投げ生活が、誤認逮捕の信頼を得るとは思いもよらないものだ。
「でもね、追われる理由はちゃんとある。知りたい?」
知りたければ話そう。
その価値が、立場を押してまでクロエを助けようとしてくれたジルにはある。
『……』
しばし無言のジル。
少し間をおいた後、聞きません、と答えた。
『知りたい気持ちもありますが、世界政府が絡む案件なのは間違いないですよね?それならば知らない方が自分のためにもいい気がします』
「そう…」
それが正しい。
これ以上関わらない方が彼のため。
「他のみんなは?」
『元気ですよ。あの後本部へと帰還し、あなたの隊は解体されました。各々が新しい持ち場で元気に働いてます』
「そっか…」