第12章 青紫の眼と新たな仲間
「さっき動けたのも、謂わば火事場の馬鹿力ってとこだ。状況わからず緊張状態にあったからで、普通は動けない」
そういえば身体中が軋むように痛い。
遅れながらに気づいた痛みに、ローは手にしたクロエのカルテを見せてきた。
「ヒビ入った箇所を見ろ」
「……」
「数えたらキリがねぇ。まだ治ってねェからなるべく体動かすな」
骨折までいかなかったのは流石だなと、変な褒め言葉をいただいた。
受け身を取っていたことが功を成していたらしい。
それからはロー主治医のもと、体の隅から隅まで、なんなら内部までもチェックされ、それが終わればイッカクに手伝って貰いなが暖かいタオルで体を清めた。
「髪の毛もOKでたから洗うね」
即席のシャンプー台をあしらえ、仰向けになったクロエの髪をイッカクが洗う。
久々にスッキリとしていく感覚に頬が緩んだ。
「あの、ありがとう…ございます」
「ん?」
「元はとはいえ、敵である海兵を助けた上にこんな身の回りの世話までさせてしまって…」
女が彼女一人しかいないから、必然的に手伝いを命じられたイッカクに、申し訳なさを覚える。
いくら彼女がローを慕っているからとはいえ恋人の自分にまでそれが向けられるなんて思っていないし、自分は仲間ですらない。
それなのに嫌な顔ひとつしないイッカクに、お礼だけでも伝えておきたかった。
「いーのいーの、お礼なんて。大切な仲間の、大切にしている人なんだ。海兵だからって邪険にする方がおかしいでしょ」
「…そういうものでしょうか」
「あんたが海兵だからって、私たちは特に何かされた訳じゃないし」
「そう言って貰えると助かります…」
わしゃわしゃと心地いい力加減で洗われる頭皮。
仲間の大切な人をも無条件で大切にできる心の優しい海賊達。
優しい指や心に、目蓋が重くなる。
どうやら体力が落ちているようで、寝起きの一騒動と検査で体力を使い果たしていた。
「洗い終わったらキャプテンと交代するから、安心して寝て良いよ」
「でも…」
世話をさせておいて寝るなんて悪い、そう言葉が続くはずだったが目蓋は既に閉じていた。
辛うじてありがとうとだけ呟くと、イッカクが「おやすみ」と返してくれたのを最後に、優しい微睡みへと落ちていった。