第12章 青紫の眼と新たな仲間
救出してから数週間が経った。
体はほぼ回復し、投薬された成分もほとんど残ってはいない。
それでも目を覚まさないクロエに、ハートの海賊団は落ち着かず各々が何度も治療室へと足を運んでいた。
「そんなに見つめたってどうにもならねェよ」
「…キャプテンだって心配で全然離れないじゃないですか!」
イッカクにぴしゃりと言われ黙るロー。
一番心配し、自室に戻ること無く既に治療室に住み着いているロー。
ご飯もそこで済ませ、所用で部屋を空けるときは必ずベポやイッカクを呼んで見張らせるほど。
急変などしないのは分かっているが、心配しすぎて眠るクロエを片時も一人にさせられなかった。
そんなハートの海賊団だが、ここ最近は大きな変化もあった。
救出前に計画していた、ローの七武海入りが正式に決定したのだ。
大々的に報じれる新聞片手に、認可されたということはクロエ救出の件にハートの海賊団が関わっていることはバレていないのだろうと、安堵の溜め息をついた。
「クロエ、大分痩せたな…」
様子を見にきていたシャチが、眠るクロエの顔を見て呟く。
体調は回復しても窶れた容姿は戻ることない。
「俺、この前の島で栄養学の本買っちゃいました…起きたクロエがバランス良くたらふく食えるようにって」
この船のなかでも意外と料理の腕が良いシャチ。
コックと一緒に厨房に立つことも多い彼は、不安げにローを見た。
「クロエ、起きますよね?」
「くだらねェ質問するな。こいつがこんな事でくたばる奴じゃねェのはお前も分かってるだろ」
そう言うローだが、まるで自分に言い聞かせているようだとシャチは思う。
(キャプテンにこんな顔させるなよ…)
細められた金の瞳が悲しげに揺れている。
医者であるから最悪のケースも頭にあって、その僅かなパーセンテージだとしてもそうならない確証など無く、余計に恐怖があるのだろう。
(早く起きろ。じゃないとキャプテンまで倒れちゃうぞ、クロエ…)
シャチは少し冷えてかさつく細い手をギュット握り、心でクロエに文句を言うと、診察室を後にした。