第12章 青紫の眼と新たな仲間
そのニュースは世界の隅々まで巡った。
海兵をも動揺させたそれは、新聞の一面を飾り、号外のチラシも島々でばらまかれた。
【海軍本部中将 クロエ 指名手配!!】
デカデカとタイトルが広げた紙の上を横断する。
戦闘中と思われるクロエの顔写真と共に詳細が書かれているが、それを読んだスモーカーはぐしゃりと新聞を握りつぶした。
「本当でしょうか、あのクロエさんが…」
たしぎも読んだのだろう記事の内容にきゅっと口を結ぶ。
彼女の言いたいことは分かる。
あの女とポーネグリフは結び付かない。
だが人の裏の顔など推し量れるものではないため、スモーカーも違うと断言できるわけでもなく、しかめっ面をさらに深めた。
「それに、この手配書…」
別紙で配られたそれは、通常ならば"DEAD OR ALIVE"。
しかしクロエのは"ALIVE ONLY"だ。
「なにやらかしたんだあの小娘は…」
ぎりっと咥える葉巻に力がはいり歪む。
クロエとスモーカーはよくクザンの元、顔を会わせることが多かった。
自分よりも10くらい年が離れているクロエだが、その頭はどこか年長者のような知識の深さを垣間見せる不思議な女に、スモーカーは興味を引かれていた。
階級が上がるにつれ会う機会も減ったが、それでも本部にいるときはたしぎやヒナも含めて飲みにいくくらいには気心知れた仲だった。
ひょうひょうとしていて、いつもおちょくるような態度で自分の執務室に訪れるクロエ。
それにたしぎがお茶菓子を持ってきて仕事が中断される日常が、とても遠い昔のように感じられた。
「それで用件はなんだ、たしぎ」
「あ、すみません!忘れていました」
抱えていた書類から数枚抜き取りスモーカーに差し出す。
「新たに派遣されてくる海兵の履歴書です。後日顔合わせにお時間を頂くことになります」
「こんな時期にか…」
ペラペラと資料を眺めながら、スモーカーはクロエの記事をデスクに仕舞うと、新たな葉巻に火を灯した。