第12章 青紫の眼と新たな仲間
覆い被さってくるクロエの体を抱き止め、上体を起こす。
体の不調のせいで呼吸は荒いが、静かに眠っていた。
(なんだったんだ…)
今見たのは、クロエが言う過去から蓄積され続けた怨念の塊が具現化したものなのだろうか。
あきらかに人格を有していて、なおかつクロエの体を自由に操っていた。
とんでもないものを身の内に宿すクロエ。
決して弱い女ではないが、腕の中で深く眠る彼女を見ると、守ってやらねばと固く心に誓い、そっと額にキスを落とした。
ロー達が脱出してから数時間後、世界政府の船が護送船に合流した。
「これはどういうことだ」
「も…申し訳、ありません…」
世界政府の船が燃え盛る船の側で停泊する。
どうみても爆破のせいではない切り口。真っ直ぐな切られ方は人為的な手が加わったものだ。
ベイヤードを見下ろしながら、ロブ・ルッチは盛大に舌打ちをした。
「侵入者はだれだ。まさかあの女が一人で脱走したわけでもあるまい」
「確かに侵入者はおりましたが、誰と判断する間もなくこの有り様でして…」
海に浮かんでいた海兵達を救助し話を聞くが誰も侵入者の正体は分からないようだった。
「最後に見張りに立っていたやつはどこだ」
「それが、見当たらないのです…」
敵にやられたのでしょうか、と呟くベイヤードの言葉にふと救助に当たった部下の報告を思い出す。
(切り口のきれいな肉片のようなものが多数沈んでいった、か…)
目撃者はきれいに消されたようだ。
これ以上ベイヤードから得るものはないと判断したルッチは海に背を向けた。
「戻るぞ」
「了解です」
室内に戻るとルッチは電伝虫を手に取った。
「俺だ。護送は失敗。対象者は脱走した後だった」
『なんじゃ、逃げられたのか…ベイヤードとやらも使えんのぉ』
「指名手配をかけろ」
「準備はできとる。元帥に流しておく」
静かになった電伝虫を端に追いやり、体を深くソファに沈ませる。
(逃げたのなら追うまでだ)
上がるように歪む口許。
あの女は絶対に逃がしはしない。
背もたれの上で返事をするかのようにハットリが一声鳴いた。