第12章 青紫の眼と新たな仲間
ぐっ、と唸り声が漏れるほど首を圧迫される。
クロエにされている事への疑問と、要所を押さえる力の強さに目を見開いた。
《なんだ、お前か》
クロエの声のような、そうでないような。
不思議な感覚に戸惑っていると首の力がなくなる。
相変わらず体は押さえつけられているが苦しくはなくなった。
「…クロエ?」
姿形はクロエだが、なにか違う。
見下ろしてくる顔は、にぃっと笑う。
(瞳の色が、青…いや紫か?)
普段とは違う瞳の色。
なにか別の存在となっているクロエはゆっくりと口を開いた。
《私の存在がわからぬか?》
ふと思い出す、クロエが夢に出てくると言っていたもう一人の醜悪な自分。
目の前の存在は確かに醜悪と形容するのがぴったりだった。
《思い当たるのがあるだろう?それで正解だ》
妖しく笑うクロエに体を起そうと力を入れるがびくともしない。
医者の自分の見立てで暫く動けないと判断したばかりなのに、この力はどう言うことだ。
《少しの間だ。我慢しろ》
ローの胸辺りに乗り上げているクロエの腕を見れば、ローが施した点滴の針が強制的に抜けた痕があり、血が流れている。
「おい、クロエの体になんてことしやがる」
《ん?》
腕を示せば、それを見た目の前のクロエがあぁ、となんてことないように呟いた。
《見ておれ》
「…は?」
しゅうっと青紫の光のようななにかに腕が包まれたかと思えば、そこには既に傷などなくなっていた。
《目覚めた私が出来ることではないから勘違いするな》
他の箇所も同様に治っていく。
医者いらずだなと言えば、そうでもない、と返ってきた。
《体を流れる毒物は無理だ。それらはお前に任せるよ》
私を助けろとクロエの顔で、クロエの声で、別人が言う。
《お前ならば問題ないと思うが…丁寧に扱えよ。後に私の体となるのだ。壊れていては困る》
「なにをっ」
《あぁ、あとお前にひとつ、いいことを教えてやる》
まったく話を聞かない女は、そっと顔を近付けて至近距離でローを見下ろす。
不気味な瞳の色が間近にあり、ひくりと顔の筋肉がひきつった。
《捕らわれている間、一度も犯されてはおらぬよ》
安心しただろう?と言う言葉を最後に、ぐらりとクロエの体が崩れ落ちた。