第11章 露呈
世界政府は私の特殊な存在を公にしないよう、理由をでっち上げたのか。
ポーネグリフの研究なんて、私を知っている人からすればウソだとわかるだろう。それほど興味はなかった。
だが数ヵ月前の任務の際に発覚した、記憶のトリガーとなるポーネグリフ。
所在がわかるものなど資料を集めていたため、執務室にはそれらが散乱している。
こちらに分が悪いことは確かだ。
ベイヤードが立ち去ってからは地下牢はシンとしている。
底冷えするような寒さに体を丸めて耐えた。
感覚で数時間経っただろうか。着岸したのが夕方だったからもう夜も更けた頃。
数人の海兵が地下牢に降りてきたのが音でわかった。
「食事だ。終わったら牢の外に出しておけ」
カタンとトレーの置かれる音。そして中に入ってきた兵に布をとられた。
「全部食べろ。ベイヤード中将からの伝言だ」
そう言って踵を返して去っていった。
(全部食べろ、か。何か入れてますよって言ってる様なものだよな…)
盛られた食事を見る。
大体の流れでいけば、夜明けから尋問が始まるだろう。
そのための準備として自白剤か…。
ポーネグリフの研究などしていないから吐くものもないが、間違ってロー達の事を話すのは不味い。かなりディープな個人情報も持っている。
(やめておこう…)
結局手をつけないまま食事のトレーを牢の外に出した。
「詳しい説明をお願い致します!ベイヤード中将!」
簡単な尋問を終え、解放されたクロエの部下たち。
その筆頭のジルはベイヤードの執務室に駆け込み事の次第の説明を求めていた。
「何度も言わすな。他言無用故、お前に伝えられる情報はない」
「ですがっ」
「くどい。早く船に戻り出港の準備をしろ」
取りつく島もなく背を向けた男に、ジルはその背後で悔しそうに拳を握った。
こんな拘束のされ方があるのか。
仮にも海軍中将の肩書きを持つ将校だ。重犯でも犯したかのような問答無用な扱いに怒りがわく。
ジル達は今回の逮捕とは無関係と早々に判断が下され、念のためにとベイヤードの部下で構成された小隊と共に本部へと帰還命令が出ていた。おそらくそこでこの隊は解体されるのだろう。
船内を調査しようと準備をする一団の横を足早に通りすぎる。
何があっても彼女を信じなければ。預かっていた私室の鍵を手に船へ戻った。