第1章 今の二人
数分走ると一つのホテルの敷地へと入る。
ここが泊まっているホテルだった。
だが乗り物はエントランスへは回らず、建物の横から裏に続く道を走った。
客人、ということだから直接部屋へ行ってくれるのだろう。
まだまだ広大な土地を迷うことなく進む乗り物に、本気で強奪しようかなんてバカなことを考えた。
「到着いたしました」
始終無口だった運転手が最初で最後の言葉を発した。
言われて降り立つと、シンプルだが丁寧な彫刻の掘られた扉があった。
ドアベルで一応訪問を告げるが返事はなく、ノブに手をかければすんなりと扉はローを中へと招き入れた。
中は開放的な間取りに品のよい調度品、夏島特有の観葉植物が置かれていた。
開放されている窓から風が流れ、ファンが回る天井と靡く葉が涼しげだった。
だがローはそんなものには目もくれず目的の人物を探すがどこにも姿はない。
間違って案内されたのか、それともクロエは外出しているのか。
とりあえず全ての場所を確認しようと部屋中を見て回った。
キッチン、洗面所、バスルームなどを経て最後の場所、バルコニーへと向かえば、その景色に思わず息を飲んだ。
リビング、メインベッドルーム、メインバスルームと横並びで配置されているのはこの景色をフルオープンで見られるようにか、と納得した。
リビングからでたら目の前に広がるのは白い砂浜にコバルトブルーの海だった。
覆い繁る木々でさえ、その影は計算されたかのように見るものに癒しと涼しさをもたらした。
そしてリビングから段差なく続くバルコニーに目的の人物がいた。
ビーチチェアを斜めに倒し、仰向けで眠りこけているクロエに、ローは静かに近づいた。