第9章 シャボンディ諸島
クロエの体を間近で見下ろしてみれば、以前よりも鎖骨がくっきりと浮き、肩が薄くなった。
「何が原因だ」
掴んでいた腰を離して抱き寄せる。
腕で包み込んだクロエは脆く、崩れそうな印象を受ける。
付き合いは長いが、こんな印象を持つのは初めてだ。
「ローには話そうとは思ってたから話すけど…」
「なんだ」
「お酒、入ってからでも良いかな?」
目の高さに上げたメニューに了承する。
ほんの少し緊張した面持ちも、久しく見てなかった顔だ。
「え~っと…乾杯?」
「いいから飲んで話せ」
自分がグラスをあおれば少し不服そうな顔のクロエも飲み始めた。
まだ話す気はないのか他愛もない話をするクロエに適当に相づちをうつ。
ボトルが3本空いた頃、段々とクロエの口数が少なくなっていた。
相変わらずクロエが主に喋っているが、時折静かに酒をあおっている。
その様子を見ていたら、いつもと違う点に気付いた。
「お前、酔ってるのか」
薄く紅く色づく肌に少しスローになる喋り方。
「なんかね…体調が万全じゃないからか、少し酔える」
ふふふと笑うクロエにドキッとした。
酔った姿なんて拝むことはないと思っていたのだ。
飢えてる欲を刺激するには充分だった。
「これなら、勢いのまま言えちゃうかな」
ふわふわとした思考で話そうとしていたのか。
危うく話を聞き出す前に押し倒すところだった。
「数ヶ月前になるんだけどね…」
そういってクロエはポーネグリフの任務について話し出した。
変な老人の言葉、その村の事、倒れたこと、そして夢に見たこと。
「その後から寝ると必ず現れるの。醜い私が」
毎回夢の私が思い描く崩壊していく世界を見せられる。
その数は数えきれないほど。
数百年かけて溜め込んできた計画を披露される。
狂気に当てられたかのように狂う感覚。
どこが夢でどれが正常な自分の感覚か判らなくなる。
そして最後は大切なものを自分の手で壊して目が覚める。
そう話すクロエの手にある酒が小刻みに揺れていた。
「薬で眠ることもできたんだけど、あまり数を頼むと軍医やジルが怪しむからね…」